2017 Fiscal Year Annual Research Report
フェムト秒光周波数コムを用いた冷却粒子の超精密分光
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17H06603
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
蔡 恩美 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (90801332)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 精密分光 / 光周波数コム / 冷却原子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は固体フェムト秒光周波数コムと原子・分子の冷却・操作技術を組み合わせることで、従来の研究ではなし得なかった波長・広帯域性・精度を有する、物質の次世代の超精密分光法を確立することを目的としている。その対象として、まず電子遷移の性質が良く理解されているアルカリ原子気体に着目した。具体的な系として室温および絶対零度付近のCs原子と室温のRb原子を用意し、それらの遷移に合わせたレーザー光源を製作した。 最初に、冷却原子用超高真空チャンバーを組み立てた。今後の精密分光実験のため、光のアクセスが容易なガラスセルを採用した。ベーキングなどの作業を行い、最終的に3×10^-7 mbarの超高真空系を完成した。また、磁気光学トラップに必要な磁場を生成するため、anti-Helmholtz型コイルをガラスセルの上下に設置した。7 Aの電流で縦勾配16 Gauss/cm、横勾配9 Gauss/cmと磁気光学トラップに十分な大きさの磁場をガラスセルの中心にかけることができる。原子源としては利用が容易なディスペンサーを用いた。 磁気光学トラップ用光源は、自作の外部共振器型半導体レーザー(ECDL)を用いた。作製したECDLはCs原子セルの飽和吸収スペクトルを利用して周波数安定化を施し、原子系に伝送された。その後、ガラスセル周りの必要な光学系を組み、Cs原子の磁気光学トラップを完成した。 上記と並行して、Rbの原子セルやその遷移用ECDLの作製も行った。これらにより、冷却原子の精密分光および複数原子の同時分光の用意ができた。今後は本研究室で立ち上げた光周波数コムを用い、これらの原子の遷移周波数測定を行っていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目標のひとつである冷却原子の分光のため、Csの超高真空チャンバーを立ち上げた。Cs原子は蒸気圧が高く、必要十分な数を確保するためにそれほどの高温を必要としない。よって、磁気光学トラップする前に別途の減速機構は必要とせず、原子源と磁気光学トラップ領域で構成されたコンパクトな系となった。今後行われる分光のため、できるだけ多くの場所から冷却原子にアクセスできるよう、磁気光学トラップ領域としてガラスセルを採用した。設計後、必要な部品を組み立て、真空引き、ベーキングを経て、3×10^-7 mbarの真空系を完成した。さらに、ガラスセルの上下にanti-Helmholtz型のコイルを設置し磁気光学トラップに必要な磁場を生成できるようにした。今回のコイルを用い、7 Aの電流で縦勾配16 Gauss/cm、横勾配9 Gauss/cmの磁場をガラスセルの中心にかけることができる。 真空チャンバーの立ち上げと同時に磁気光学トラップに必要な光源も用意した。Csの遷移波長は半導体レーザーを容易に調達できる波長であり、自作のECDLを作製した。アルカリ原子の超微細構造により原子一種類当たり二つの波長を用意する必要があるため、合計2つのECDLを作製した。レーザー周波数の安定化には、Cs原子セルの飽和吸収スペクトルを利用した。レーザー周波数に変調を加え飽和吸収スペクトルからエラー信号を生成し、自作の回路を用いてフィードバック制御することで、ECDLの周波数を磁気光学トラップに必要な原子遷移に安定化した。 上記の真空系とレーザーを合わせ、必要な光学系を組むことで目的としたCsの磁気光学トラップを完成した。これより、光周波数コムを用いた精密分光のための冷却原子が用意できた。 さらに、複数の原子遷移の同時観測のため、Rb原子セルや、その遷移に周波数安定化された光源を用意した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究室で立ち上げた光周波数コムを用い、原子セルの光周波数コム分光を行う。本年度は昨年度立ち上げた冷却原子系および室温原子系を対象によく知られている原子の遷移を二光子吸収で測定し、文献で知られている周波数を検証する。 そのために、光周波数コムの光を光ファイバーを経由して原子セルのセットアップまで伝送するが、その際光ファイバーの曲げや温度の揺らぎ、音響雑音などによりkHzレベルの位相雑音が乗ってしまう。より精度のよい分光測定をするためにはファイバー由来の位相雑音を打ち消す必要がある。本研究室では学内光ファイバーネットワークを通して光を送り、その際の位相雑音を除去した経験がある。その経験を生かし、光周波数コムの不確定性を損なわず原子セルの分光測定に利用する。 また、初年度に立ち上がったCsの冷却原子を対象に精密分光実験を行う。そのため、まず分光用ECDLを用意し光周波数コムにロックする。このことにより、光格子時計に対して18桁の相対精度、すなわち長期積算のもとでは光領域でmHzレベルの絶対周波数を持った分光用レーザーを準備できる。この光源を利用し冷却原子の遷移中心周波数、線幅、スペクトルの形状を今までにない精度で測定する。複数の遷移に対応するECDLをそれぞれ用意し、それらを同時に光周波数コムにロックすることで、複数の遷移を同時に測定することも可能である。 また、半導体ダイオードレーザーで到達しにくい周波数域に関しては、直接光周波数コムを用いて(いわゆる直接コム分光法やデュアルコム分光法)分光測定を行う。これらの多彩なスペクトル情報から、残留電場や残留磁場に伴う遷移周波数の系統誤差を除去する試みを行う。
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