2017 Fiscal Year Annual Research Report
医療過誤事案における医師の刑事過失責任の限界づけ―医療水準論からのアプローチ
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17H07117
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
谷井 悟司 中央大学, 法学部, 助教 (00803983)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 刑法 / 医療過誤 / 過失 / 注意義務 / 医療水準 / ガイドライン / 不法行為 / ドイツ法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、医療過誤事案において医師が負うべき刑事過失責任の限界を明らかにするべく、注意義務と医療水準との関係性に着目し、両者を接合することで、医師が果たすべき注意義務を判断するための基礎理論の構築を目的とする。すなわち、治療行為を実施するにあたり医師が守るべき、臨床医学の実践における共通の行動準則である医療水準が、業務上過失致死傷罪における注意義務の判断に及ぼす影響や、その根拠ならびに限界を解明することで、医療水準を基礎に医師の注意義務の有無および具体的内容を確定する判断枠組みを理論化することを目指すものである。 そこで、初年度である平成29年度は、基礎研究に主眼を置いて、①わが国における民事法上の議論を分析するとともに、②ドイツ刑法における医療水準論の把握を行った。 具体的には、①わが国の民事法の分析として、医療水準を用いた注意義務の判断が医療過誤訴訟における医師の損害賠償責任という文脈でかねて議論されてきたものであることに鑑み、医療過誤に関する不法行為法の議論を対象に、分析・検討を行った。これにより、医療過誤事案において医師の民事過失責任を判断するにあたって、医療水準という概念が着目されるに至った経緯、そして、同概念を用いた注意義務の判断手法や、そこでの各種ガイドラインの取り扱いに関する判例・学説上の理解が明らかとなった。 そして、②ドイツ法の議論の把握としては、医療水準を注意義務の基準として重視する傾向が色濃く見られるドイツ刑法における医療水準論について、分析・検討を行った。これにより、日独における医療水準論の異同を明らかにし、次年度に予定されている両国の比較法研究のための基礎を築くことを試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記【研究実績の概要】で述べた内容のうち、①わが国の民事法の分析については、おおよその検討を終え、次年度の研究を進める上で前提となる議論を整理することができた。 他方で、上記②の点について、ドイツ法の議論を把握した上で、日独における医療水準論の異同を明らかにする作業は、いまだ十分とはいいがたい。というのも、上記①の分析にあたって、当初予定していたよりも幅広く民事法上の議論ならびに民事判例を検討する必要性が生じたため、ドイツ法の検討に移行するのが遅れてしまったからである。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、まず、上記【現在までの進捗状況】で述べた②に関する積み残し作業として、ドイツ法の議論を把握した上で、日独における医療水準論の異同を明らかにする。 その上で、③ドイツ刑法における医療水準論の更なる分析による有益な比較法的知見の抽出・検討を行った上で、④日本法における注意義務と医療水準の理論的な接合を図る。 具体的には、③について、医療水準論に関わるモノグラフや、医療過誤事案において医師の注意義務が争われた判例・裁判例を中心に収集・検討するとともに、ドイツ法の現況をより的確にフォローするためヒアリング調査を実施する。これにより、注意義務の判断に医療水準が及ぼす影響や、その根拠ならびに限界に関するドイツ法の理解を明らかにする。 ついで、④について、上述した①~③までの研究から得られた成果を踏まえた分析・検討を行い、日本法における注意義務と医療水準の理論的な接合を図る。これにより、医療水準を基礎に医師の注意義務の有無および具体的内容を確定する判断枠組みを理論化することが可能となる。そこで得られた成果を本研究課題の最終的な研究成果としてまとめ、平成30年度中に公表することを予定している。
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