2017 Fiscal Year Annual Research Report
プルーストにおけるヴェルヌ受容の生成論的・歴史分析的研究―文学・美術・進歩主義
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17H07228
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
荒原 邦博 名城大学, 人間学部, 准教授 (20806509)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 仏文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
『失われた時を求めて』はSF冒険小説家ヴェルヌの《驚異の旅》連作といかなる関連があるのか。プルーストの長篇は純文学に属するがゆえ、大衆作家ヴェルヌとの関係は双方の作家研究で長らく等閑に付されてきた。そこで平成29年度の研究では、プルーストの書簡から小説の源泉と推測されるヴェルヌの短篇「二九世紀にて」を生成論的・テクスト理論的な分析対象とし、美術作品への参照と進歩主義への批判によってこの作品が特徴づけられることから、広範な文化史的読解を施すことでプルーストとヴェルヌとの関係性を十全に把握し、両者を分断してきた文学史に見直しを迫ることを目的とした。 具体的には、ヴェルヌの短篇「二九世紀にて」と関連する『失われた時を求めて』のテクストを検討するために、第2篇『花咲く乙女たちの蔭に』および第4篇『ソドムとゴモラ』の一節に関する検討を行い、1889年から1900年にかけての仏米におけるミレー受容と1857年から1863年にかけてのクールベの受容に関する美術批評を主にBNF(フランス国立図書館)所蔵の資料を精査することによって、ヴェルヌとプルーストに見られるミレーとクールベをめぐる言表の歴史的な意味作用の射程を解明することができた。 上記の資料収集から得られた調査結果を踏まえて、名城大学の紀要にプルーストにおけるミレーをめぐる古典性と前衛主義への批判に関する論文を発表した。この論考はプルーストのテクスト的源泉がトルストイのミレー論にあることを初めて確定した点で画期的である。また主催者の一人として日本初開催を実現した10月のヴェルヌ国際シンポジウムでは、プルーストとヴェルヌについてアカデミスムの画家レオン・ボナが両者のテクストで持つ積極的な意味作用を明らかにした。同時代の排外主義に抗するボナのイメージという未知の可能性を解明したこの発表は加筆・修正した上でヴェルヌ研究会会誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究では、プルーストの書簡から小説の源泉と推測されるヴェルヌの短篇「二九世紀にて」を生成論的・テクスト理論的な分析対象とし、美術作品への参照と進歩主義への批判によってこの作品が特徴づけられることから、広範な文化史的読解を施すことでプルーストとヴェルヌとの関係性を十全に把握し、両者を分断してきた文学史に見直しを迫ることを目的としていた。 ヴェルヌの短篇「二九世紀にて」と関連する『失われた時を求めて』のテクストを検討するために、第2篇『花咲く乙女たちの蔭に』および第4篇『ソドムとゴモラ』の一節に関する検討を行い、1889年から1900年にかけての仏米におけるミレー受容と1857年から1863年にかけてのクールベの受容に関する美術批評を主にBNF(フランス国立図書館)所蔵の資料を精査することによって、ヴェルヌとプルーストに見られるミレーとクールベをめぐる言表の歴史的な意味作用の射程を解明することができた。 当初予定していたITEM(近代テクスト草稿研究所)のプルースト班で草稿調査を行う作業は、10月のヴェルヌ国際シンポジウムの日本初開催を実現するための準備に時間を取られたために果たせなかったが、この点については平成30年度の資料収集・調査と合わせて行うことが可能であるので、研究課題を進める上で大きな問題とはならないと考えられる。 むしろ、国際シンポジウムの開催を実現できたことはこの点を補って余りあるものであり、その他にも紀要論文の発表、日本フランス語フランス文学会秋季大会においてプルーストとヴェルヌの関係をめぐる講演を行い、また丸善書店でヴェルヌをめぐるゼミナールを開催、中日新聞にヴェルヌ新訳コレクションに関する紹介記事を書くなど、研究成果の社会に対する還元が著しいという点で、研究計画の概要どおり、あるいはそれ以上の成果を上げることができていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度におけるヴェルヌの短篇「二九世紀にて」および長篇『ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密』とプルーストとの関係性の検討と受けて、平成30年度においては当初の予定通り、プルーストの書簡から小説の源泉と推測されるヴェルヌ作品『チャンセラー号』を生成論的・テクスト理論的な分析対象とし、美術作品への参照と進歩主義への批判によってこの作品が特徴づけられることから、広範な文化史的読解を施すことでプルーストとヴェルヌとの関係性を十全に把握し、両者を分断してきた文学史に見直しを迫ることを目的とする。 具体的には、『チャンセラー号』と関連する『失われた時を求めて』のテクストを検討するために、第5篇『囚われの女』および第7篇『見出された時』の一節に関してITEM(近代テクスト草稿研究所)でプルーストの草稿調査を行う。また、同時代のロビンソン譚におけるカニバリズムの表象を文化史的に解明するためにBNF(フランス国立図書館)において資料収集を行う。さらに1900年前後におけるドラクロワと1875年前後のジェリコーに関する美術批評を同館とオルセー美術館資料室の所蔵する美術・芸術雑誌において精査する。 昨年度の研究が進展するにつれて、ロビンソン譚としてはヴェルヌの『神秘の島』がプルーストにとって重要であったこと、またデフォーの『宝島』も読んでいたことが明らかになってきたため、この2作品も分析の対象に加えることでロピンソン譚に対する多角的な考察を行うことにしたい。さらに、『チャンセラー号』をエディプス神話の特異な形態として読解したミシェル・セールを受けて、ヴェルヌにおけるエディプス神話のずらしの問題に触れたジル・ドゥルーズの『アンチ・オイディプス』が取り上げているヴェルヌの『カルパチアの城』も併せて検討すべきだと考えられるので、この作品も研究の対象として分析することにしたい。
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Remarks |
荒原邦博・三枝大修・石橋正孝:第100回丸善ゼミナール(丸善名古屋本店) 「テーマ:いまこそヴェルヌ!『蒸気で動く家』刊行記念トーク」 荒原邦博「ヴェルヌ〈驚異の旅〉シリーズ刊行に寄せて」、『中日新聞』12月1日付夕刊文化欄(9面)
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Research Products
(5 results)