2018 Fiscal Year Annual Research Report
Investigation of the neural mechanisms of novelty-evoked motivations
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17J00052
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Research Institution | Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University |
Principal Investigator |
山村 頼子 沖縄科学技術大学院大学, 科学技術研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 新奇性 / ノルアドレナリン / ドーパミン / 行動 / 側坐核 / 動機づけ |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの動物にとって、今までに見たことのない新しいものに対してどう反応するかは、生死を分けるほど重要な問題です。新しいものを常に避けていると、環境の変化についていくことはできませんが、新しいものに何でも不用意に近づけば、時に命の危険に晒される可能性もあります。進化の過程でほとんどの動物は、新しいものに対して多くの場合に適切な結果をもたらすような行動パターンを獲得してきたと考えられます。それがどのような行動なのかを明らかにし、その行動の脳内機序を明らかにすることがこの研究の大まかな目的です。 第一の具体的目標は、動物が新しい物体を見た時に好奇心を持ってその物体に近づくのか、それとも用心深くその物体を避けるのかが、新しさの程度にどのように依存するかを、明らかにすることでした。第二の目標は、報酬を獲得する意欲(動機づけ)に関与するとされている、動物の脳内の側坐核という部位におけるドーパミンという神経伝達物質の放出が、動物が新しい物体に近づいたり遠ざかったりする意欲(動機づけ)にどのような影響を与えるかを明らかにすることでした。 今年度、私は昨年度確立した実験・分析手法を用いて、新しい物体を与えられた時にマウスが物体に近づいている時間を数理モデル化することに成功しました。また、実験を行う中で、マウスが実験者に慣れるにつれて新しい物体に近づいている時間が長くなることに気づきました。そこで、(ラットを用いた先行研究で不安を惹起する効果が示された)ノルアドレナリン作動性の薬を投与して同じ実験を行った結果、生理食塩水を投与した対照実験に比べてマウスが新しい物体に近づいている時間が短くなることが判りました。このように新しいものを避ける行動は、当初私が側坐核におけるドーパミンの増加によって引き起こされると考えていたものです。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の根底にある問いは、動物はどのようにして新奇刺激に対して回避行動と接近行動を使い分けているのか、というものです。私の仮説は当初、動物は「ほどよい」中程度の新奇性には近づくが、非常に新奇な刺激は避ける、というものでした。そして、そのメカニズムとして、刺激の新奇性に応じて側坐核内に放出されるドーパミンが非線形的に動物の動機づけを制御している(つまり、中程度のドーパミン放出は接近を動機づけるが、それ以上の放出は回避を動機づける、という)可能性を想定していました。 しかし、行動データを集める中で、マウスが新奇物体を避ける程度は、物体そのものの新奇性ではなく、実験者への馴化の程度に依存することに気がつきました。マウスにとっては実験者も新しい刺激ではありますが、新奇性の度合いを新奇物体と定量的に比較することが困難です。一方、実験者への馴化によってマウスの不安行動が減少することは比較的容易に定量化できます。そのため、刺激の新奇性が回避行動を亢進するという仮説ではなく、不安が新奇刺激の回避行動を亢進するという仮説を検証することにしました。そこで、不安行動を亢進する薬を用いた実験など、新たな実験が必要となりました。 一方、自由行動課題を採用したことで、マウスの新奇物体に対する接近・回避行動を詳細に記録することができ、新奇物体への接近時間の分布から、不安をパラメータとした新奇性接近・回避の数理モデルを作成することができました。 今年度予定していた記録実験は行えませんでしたが、結果的に、記録実験を終えてから最終年度に着手しようと考えていた数理モデル化の作業を先に行った形となりました。したがって、総合的な進捗状況としては、軽度の遅れであると判断し(3)を選択しました。
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Strategy for Future Research Activity |
今後一年間は、今年度作成した新奇物体に対するマウスの接近・回避行動モデルの検証を中心に研究を進めていきます。今年度に引き続き、不安に対応するパラメータを薬理学的に変化させた時にマウスがモデルの予測通りに行動するかどうかについて、より多くのデータを集めて検証します。まずは今年度に引き続き、ノルアドレナリン作動性の抗不安薬の全身投与でノルアドレナリンの関与を調べます。 本研究の中心となる仮説において新奇性回避行動を調節するパラメータを、新奇性そのものから不安に切り替えたことで、調節の神経機序として側坐核内のドーパミン濃度を想定する必然性は薄れましたが、関与していないとは限りません。探索的に、ドーパミン阻害薬を全身投与して同じ実験を行い、接近・回避行動への影響を調べます。 全身投与で接近・回避行動を有意に変化させた薬については、側坐核に局所的に拮抗薬を投与するレスキュー実験を行い、側坐核におけるノルアドレナリン(あるいはドーパミン)伝達が接近・回避行動の調節に関与しているかどうかを調べます。 残り時間の中で記録実験をも終わらせるのは困難な可能性がありますが、所属研究室の他の研究者の記録装置を使わせてもらうことで準備時間を短縮する方策を検討しています。
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