2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17J00163
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Research Institution | Kobe University |
Research Fellow |
大東 直樹 神戸大学, 国際協力研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 教育機会の不平等 / 外国籍生徒 / 外国にルーツのある生徒 / 高校 / 進路 / 特別入学枠 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在日本では、外国籍生徒および日本国籍であっても外国にルーツのある生徒の高校教育機会が、日本人生徒に比べて依然として不平等な状況にある。本研究は、こうした高校教育機会の不平等を問題意識にもち、外国籍および外国にルーツのある日本国籍の生徒に対する高校教育支援の現状と課題を明らかにすることを目的に進めてきた。 今年度はまず、以上のような高校教育機会の不平等を縮小することを目的に、いくつかの自治体の公立高校で実施されている特別入学枠に焦点を絞り研究を展開した。特別入学枠は、一般の入学試験とは異なる方法で外国籍生徒もしくは外国にルーツのある日本国籍の生徒を選抜し、入学後も必要な教育支援を提供するものである。本研究では、特別入学枠を実施している関西地方A県の公立高校を事例にして、特別入学枠の運用状況について教師および特別枠入学の生徒へのインタビュー調査を実施した。運用状況については、具体的に①入学者選抜の状況、②入学後の校内教育支援の状況の2点から検討をおこなった。①については、受験者数と合格者数について各高校の状況を把握した。また②については、カリキュラムや評価方法等の調査に加え、一部の高校では授業観察も実施しデータを収集・記録した。調査の結果、どの高校でも行政の指導のもと校内支援制度が構築されてはいるものの、しかし十分な人材やノウハウが提供されているわけではないことが浮き彫りになった。 本研究は、特別入学枠を導入して間もない自治体を対象にして、2年間にわたる継続的調査を実施することで、制度の課題とその改善プロセスを解明するという点においてこれまでなかったものである。今後、高校へ進学を希望する外国籍および外国にルーツのある日本国籍の生徒がいっそう増加していくことが予想されるなかで、本研究は高校での教育支援のあり方を考察するための重要な知見を提供するものとなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、外国籍生徒に対して実施されている特別入学枠の機能の検討を中心に研究を進めてきた。具体的には、本研究が事例とするA県の公立高校で実施されている特別入学枠について、導入背景と構造を調査した上で、特別入学枠をもつ全ての高校で教員へインタビュー調査を実施し、入学者選抜の状況と入学後の校内教育支援の状況を調査した。さらに実際に教室に入り込み、授業観察を実施することで教授法などのより詳細なデータ収集にも努めた。同時に、特別枠入学の生徒へのインタビュー調査もおこない、基礎的な属性情報と学校生活や提供される校内教育支援についての感想や意見も収集・記録した。 そのなかで入学者選抜に関しては、制度を導入してまだ日が浅いこともあり、高校によって受験者数が偏っていることが確認できた。そのため人気校になると、来日間もなく日本語能力が乏しくても不合格になってしまう生徒がいる現状を把握できたことは有益であった。一方、入学後の校内教育支援に関しては、行政の指導のもと「日本語」の授業、母語サポーターを活用している授業、通常のクラスでは理解が難しい教科・科目のために個別的に別室でおこなわれる「取り出し授業」などの支援をどの高校も展開していることが確認できた。しかし実際としては、制度そのものが発展途上にあるため、高校側に人材やノウハウが十分に提供されているわけではなく、こうした状況のもとで校内教育支援が展開され、生徒の学校適応や学習状況に影響を与えている現状を観察できたことは意義深い。 以上の研究成果は、申請者が所属する学会で発表しており、研究はおおむね順調に進んでいると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、①特別入学枠に関する調査の継続、②外国籍生徒および外国にルーツのある生徒が在籍する一般の高校での調査の2点を検討していく。 具体的な作業として、①については特別枠入学の生徒の学校適応や学習状況に関するデータを前年度に引き続き収集し、支援の課題とその改善プロセスについて考察していく。また前年度の調査のなかで、特別入学枠のあり方に対する教師の意識に、高校間および教師間で大きな差異があることが明らかになったため、あらためて特別入学枠に対する教師の意識をアンケートで調査し、その規定要因を統計分析によって明らかにする。最後に、2018年度に高校3年生となる特別枠入学の生徒を対象に、高校卒業後の進路希望に関する調査をおこなう。とくにこれまで、高校卒業後の進路に関する研究はほとんど蓄積されていないため、本研究において高校から労働市場あるいは高等教育機関への接続問題を考察することは重要な取り組みになる。 ②については、外国籍生徒あるいは外国にルーツのある日本国籍の生徒が在籍する高校のなかで、特別入学枠実施校の位置付けを明確にすることを目的に調査を実施する。具体的には、A県のなかでも国際科をもつ高校や定時制高校には外国籍生徒あるいは外国にルーツのある生徒が多く在籍している傾向があるため、これらから調査校を選定し、主として教員および生徒へのインタビュー調査から支援状況や課題を明らかにする。
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Research Products
(3 results)