2017 Fiscal Year Annual Research Report
視覚障害のある教員の職務上の困難とそれを解消するための有効なサポートの解明
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17J00257
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
中村 雅也 立命館大学, 先端総合学術研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 障害者労働 / 就労支援 / 障害者教師 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は二つある。一つは、視覚障害教員たちの職務上の困難を分類し、カテゴリーを析出して、全体構造を解明すること、もう一つは、困難を解消するための有効な支援方策を明らかにし、それをもとに支援のモデルを構築することである。今年度は、専ら前者を研究課題として、調査、データの整理、分析を行った。 4月から8月の間に、視覚障害のある教員へのインタビュー調査を実施した。小学校1名、中学校3名、高等学校7名の合計11名である。インタビュー内容は録音し、トランスクリプトを作成した。トランスクリプトから個々の視覚障害教員の困難の具体例を抽出した。抽出した具体例をKJ法を用いて困難の類似性により分類し、困難をカテゴリー化した。 視覚障害教員たちの困難は大きく読字の困難と移動の困難の二つのカテゴリーに統合された。このうち、読字の困難は全盲者と弱視者に共通して見られたが、移動の困難は全盲者に多く見られ、弱視者にはほとんど見られなかった。視覚障害教員たちの困難には、全盲者と弱視者で大きな相違点があることがわかった。さらに、移動の困難は、校内移動と校外移動に分類されたが、校内移動の困難に対しては点字ブロックの敷設などの物的支援が有効であった。他方、校外移動の困難には人的支援が有効であったが、ほとんどが自助、もしくは非公式な支援で対処されており、支援の不足が職務を制約していることが浮き彫りにされた。 また、読字の困難は授業中と授業外に分類されたが、授業中の困難は、授業外で支援を得て授業準備することで多くは解消可能であった。他方、授業外の読字の困難は授業準備、成績処理など、教職の中核業務で顕著に現れていた。主に人的支援で解消が図られていたが、公的な支援の時間、人材は十分に確保されておらず、勤務時間外にボランティアによる支援を得て、困難に対処している現状も浮かび上がった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の前半期における最も肝要な課題は、インタビュー調査によるデータの収集である。初年度の4月から8月の間に、11名の視覚障害教員へのインタビューを実施することができた。日帰りで調査可能な近畿地方在住のインタビュイー6名については、勤務校の春休み期間、休日等を利用してインタビューを行った。遠方在住のインタビュイー5名については、夏休み期間を中心にインタビューを行った。5か月という短期間に11名の視覚障害教員とのコンタクトに成功し、全員に調査協力の承諾を得て、インタビューを実施できた。このことはきわめて順調な研究の滑り出しであり、その後の進展にも良好な影響を与えた。 また、インタビューは半構造化インタビューであったが、1回のインタビュー時間が3時間を超えることも多く、非常に豊富で内容深いデータが収集できた。そのため、録音データは40時間近くになり、トランスクリプトを作成するのに時間がかかることになったが、特別研究員奨励費による業者発注ができたので、研究の進捗に大きな助けとなった。 現在、データ分析と考察を進めているが、まだ論文として発表するには至っていない。しかし、この間、『障害のある先生たち──「障害」と「教員」が交錯する場所で』(羽田野ほか 2018)の分担執筆を行い、本研究と一連をなす研究成果を書籍で刊行している。本研究の成果発表は後半期に持ち越すことになったが、執筆に向けての準備は整いつつあり、研究はおおむね計画通りに進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究では、視覚障害教員たちの職務上の困難について、カテゴリーを析出し、構造と類型を明らかにした。今後の研究では、それらの困難を解消するための有効なサポート方策を明らかにし、それをもとにサポート・モデルを構築する。 具体的な研究推進方策は次のとおりである。現在までの研究で明らかになった困難の類型と、実施されたサポートの種類との関係を、次の方法で検討する。困難の類型ごとに、実施されたサポートを道具的、情報的、情緒的、評価的サポートの4種類に分類する。困難の類型ごとに、4つのサポートの種類のそれぞれの実施数を検討し、困難の類型と実施されたサポートの種類との関係を明らかにする。さらに、困難の類型ごとに、実施されたサポートの種類、その提供者、提供方法(時間、場所、公的・私的の別など)について、インタビューで指摘された問題点をもとに、それぞれの問題点と有効性を検証する。困難の類型ごとに、問題点が少なく、有効性の高いサポートの種類、および提供者、提供方法を検出し、これをもとに、困難の類型に応じた有効なサポート・モデルを構築する。 これらの研究成果は「視覚障害教員の職務上の困難を解消する有効なサポートの解明とサポート・モデルの構築」(仮題)として、学会機関誌『日本教師教育学会年報』に投稿する。インタビュー調査で収集したデータと研究概要を総合的に整理した報告書『障害のある教員に対する合理的配慮とサポート事例集・視覚障害編』(仮題)を作成し、冊子頒布とWeb公開を行って、調査協力者をはじめ、広く関係者に研究成果を還元する。
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Research Products
(2 results)