2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17J00269
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
矢ケ﨑 太洋 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 東日本大震災 / 津波 / レジリエンス / 住宅移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、東日本大震災に起因する津波災害からの地域社会のレジリエンスを明らかにすることを目的とする。東日本大震災は日本の防災施策において想定外の災害とされ、災害リスクの排除ではなく、地域社会の復元性を意味するレジリエンスに注目が集まった。東日本大震災における地域社会のレジリエンスに着目することで、日本の防災政策や復興政策に対して有意義な知見の示唆が期待できる。本年度では、レジリエンスの概念整理、三陸沿岸地域における実地調査などを中心に研究を行った。レジリエンスの概念は欧米の生態学において提唱され、人間生態学、地理学、災害研究などへ導入された。人間生態学では人間の生体システムの維持と管理が議論される一方で、災害研究では激甚災害からの地域社会の復興が議論され、学術分野によって概念の差異がみられた。東日本大震災の津波災害からの地域社会のレジリエンスでは、津波による被害が大きかった低地から津波リスクが低い高台へ、住民のレジリエンスを反映して移動が発生した。これらの移動形態について、防災集団移転のような集団による移転と、自主再建などの個人による移転に分類できた。防災集団移転では地域社会での結束が強いほど、早い合意形成が成される一方で、気仙沼市の浦島地区や舞根地区などの防災集団移転を行った地域社会で、転出者によって人口が減少した。自主再建が盛んに行われている東新城地区では、農地や荒地が住宅や商業地に転換されており、結果的に人口が約2倍に増加した。一方で、これらの転入者の多くは気仙沼市浦島地区からの移転が多く、これは震災以前に浦島地区の住民が東新城地区の土地を所有することが要因であった。以上から、津波からの地域社会のレジリエンスでは、住宅の移動が発生する一方で、震災以前に培われた地域間の関係性が重要な要因であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度では、文献によるレジリエンス概念の整理、三陸沿岸地域における実地調査、東日本大震災の実地調査などが無事に進展した。文献によるレジリエンスの概念整理では、レジリエンスの概念を災害研究や災害地理学に特化させた「災害にともなう地域社会の適応過程」を提示した。これは地域社会のレジリエンス捉える上で、災害後の避難、復旧、復興の過程を捉える重要性を示唆した。このレジリエンスモデルを元に、宮城県気仙沼市舞根地区における防災集団移転事業について、聞き取り調査を実施したところ、迅速な防災集団移転の意思決定は震災以前の地域社会の関係性が影響することが示唆できた。この研究成果は「地学雑誌」に掲載された。加えて、気仙沼市東新城地区と浦島地区を対象とした津波による人口移動の研究では、移転する住民の移動先をみると、移動先の空き区画や土地所有などの関係性が重要な要因であった。その一方で、移動元の地域社会では、転出者と地域社会の関係を保持することを目的とした賛助会を組織しており、人口減少による自治会の機能低下を補っていた。これらの研究成果は、平成29年度の博士論文として英語で執筆し、筑波大学に提出された。これらに加えて、新たな研究のテーマとして、東日本大震災の知見が他地域の防災政策に与える影響が提起され、和歌山県において調査をおこなった。和歌山県では南海トラフ地震による津波が想定され、自治体の役所が高台へ移転する事例がみられた。以上の理由から、本研究はおおむね順調に進展しており、当初の研究目的を達成することができると認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる平成30年度には、研究課題についての成果発表の作業と、事例研究の補足調査を並行して進める予定である。研究課題については博士論文で執筆した一方で、学術的な研究成果としては未公開であり、学術的な場においての公表を進める。研究成果については国際会議であるIGU(International Geographical Union)の2018年度大会において” The Great East Japan Earthquake and the Resilience of Coastal Communities: A Case Study of Kesennuma City, Miyagi Prefecture, Japan”の論題で口頭発表を行う。また、和文学術誌においても研究課題の発表を随時おこなう。事例研究の補足調査では、東日本大震災の発生から7年の経過を念頭に置き、宮城県気仙沼市において住宅移動と地域社会の関係性に関する調査を引き続きおこなう。特に、現在では商業施設や神社などの宗教施設の復興が活発に行われており、これらの移動について留意する。加えて、東日本大震災の知見が導入された和歌山県の自治体の役場移転についても、引き続き調査、研究をおこなう。以上の作業を中心に、研究課題の達成を目指して着々と研究を推進する予定がある。
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Research Products
(3 results)