2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J00285
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Research Institution | NTT Communication Science Laboratories |
Principal Investigator |
石田 真子 日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所, スポーツ脳科学プロジェクト, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 音声知覚 / 知覚的補完 / 発話速度 / 時間反転音声 / 劣化音声 / 第一言語 / 第二言語 / 英語 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の研究活動では、日本学術振興会に提出済みの年次計画の通り、英語の母語話者と第二言語習得者が、音声の「発話上の崩れ」と「音響的な崩れ」をどのように知覚上で補完して聞いているのか、について研究を行った。特に、「発話者が作り出す自然な音声の崩れ」と「人為的操作による音響的な音声の崩れ」が同時に組み合わせされた場合に、母語話者・第二言語習得者がどのように音声を知覚するのかに着目した。
「発話者が作り出す自然な音声の崩れ」については、英語の母語話者に、英語の単語(有意味語・無意味語)を出来るだけ早口で話してもらい、発音の崩れを誘発した。特に、英語では早口になればなるほど、隣り合った単語が結合され、音素の脱落や逸脱が起こることが知られているが、それを踏まえて早口の発話を促した。「人為的操作による音響的な音声の崩れ」については、早口で発話された音声に対して、「時間反転処理」を施した(時間反転音声)。即ち、音声信号全体を、音声の開始時点から、等間隔の時間区間に区切り(例:50 ms)、その各区間を時間軸上で反転させる処理を施した。音声の崩れのレベルは、時間反転区間の長さによって6段階に分けられた。
実験では、英語の母語話者と第二言語習得者に、「発話上の崩れ」と「音響上の崩れ」が同時に起こる"Locally time-reversed 'fast' speech"を聞いてもらった。実験の結果、英語の母語話者は、第二言語習得者よりも、音声の崩れ(発話+音響)を知覚的に補完して理解出来ることがわかった。また、母語話者にとっての「無意味語」の明瞭度(intelligibility)と、第二言語習得者にとっての「有意味語」の明瞭度(intelligibility)がほぼ同等であった。第一言語で聞き取りづらい音声は、第二言語で比較的聞き取りやすい音声とほぼ同等であったとも考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PD1年目では、母語話者・第二言語習得者の知覚的補完能力(劣化した音声を補って聞く能力)について調査することを目標としていたが、現在までのところ、概ね順調に進展している。具体的には、「早口の発音」+「時間反転音声」という、同時に起こる、2種類の音声劣化が、どのように、また、何を手掛かりとして、知覚的に修復されるかについて、実験データを用いて調査し、研究発表を行った。
英語の母語話者に関しては、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校心理学科Dr. Arthur G. Samuel Labで実験を行った際のデータを使用した。英語の第二言語習得者に関しては、NTTコミュニケーション科学基礎研究所で実験を行った際のデータを使用した。本研究における母語話者は、「アメリカに在住している、英語母語話者」であった。また、第二言語習得者は、「日本に在住している、日本語を母語とし、英語を第二言語とする者」であった。それぞれの実験は、各研究機関の倫理委員会の許可を得て行われた。
英語の母語話者と第二言語習得者に対して、同じデザインの実験を行い、その結果を比較しながら論ぜられたことは、音声知覚処理と言語能力の関係を理解する上で、非常に有意義であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの実験で、英語の母語話者は、第二言語習得者よりも、音声の重度の崩れ(「自然な発話上の崩れ」+「人為的な音響上の崩れ」)を知覚的に補完して理解出来ることがわかった。また、母語話者にとっての「無意味語」の明瞭度(intelligibility)と、第二言語習得者にとっての「有意味語」の明瞭度(intelligibility)がほぼ同等であった。即ち、第一言語で聞き取りづらい音声は、第二言語で比較的聞き取りやすい音声とほぼ同等であるかのようにも見受けられる。翻って、日常生活に目を向けると、公共放送や災害放送などで流れる、「雑音交じりで、多種多様な発音が存在する音声」は、母語話者にとっては比較的、知覚的に補完して理解することが可能だが、第二言語習得者にとっては非常に難しい場合があることが想像できる。このことを踏まえた上で、第二言語習得者用の語学教材(実生活環境に即した教材:authentic materials)を開発する必要性が、今後の課題として示唆される。
今後の研究においては、更に、英語の母語話者・第二言語習得者(母語:日本語)が、劣化した音声を「どのように」、「何を手掛かりとして」、聞いているのかについて調査し、聴取者の語学習熟度と音声の知覚的補完能力の関係や、音声知覚処理の重要な手掛かりについて研究を進める。また語学習熟度の測り方についても、継続して考えていきたい。
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