2017 Fiscal Year Annual Research Report
Revealing the mechanisms behind the establishment of association between Megymenum gracilicorne and filamentous fungi on the female hind tibiae and the egg surface
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17J00410
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Research Institution | University of Tsukuba |
Research Fellow |
西野 貴騎 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 共生 / カメムシ / 糸状菌 / 組織学 / 遺伝子発現量解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
ノコギリカメムシの後脚共生器官および卵表面にて特定のグループの糸状菌との共生が成り立つ機構を解明することを目的として,組織学的な観察と遺伝子発現量の解析を行った.そのうち RNA-seq による遺伝子発現量の解析,卵殻と成虫の後脚の組織学的観察は完了したが,未成熟成虫や終齢幼虫の組織学的観察はまだ済んでいない.また,卵殻表面の物質の解析に向けて卵表面の物質を抽出する方法の検討を行い,卵殻の表面を溶かすことに成功した. 組織学的観察では,後脚や卵の表面構造と切片の組織構造を観察した.その結果,後脚共生器官は表面に無数の小孔を持ち,糸状菌はその小孔の内部から伸び出るように存在していることが明らかになった.さらに組織切片の観察から,小孔の底には多糖類を含んだ分泌組織があることがわかった.これらの観察結果から,後脚共生器官では分泌組織が何らかの物質を糸状菌に分泌することで,糸状菌の種類の選択と維持を行っている可能性が示唆された. また,遺伝子発現量解析の結果,遺伝子発現のパターンは共生器官の有無よりも共生状態にあるかどうかが大きく影響していることが示された.高発現している遺伝子には血糖の輸送に関与した遺伝子,物質の輸送や薬物の排出に関与した遺伝子などが高発現しており,活発に代謝を行うことや,糸状菌の作る毒に対する防御として働いている可能性が考えられた.多糖類の合成に関与する遺伝子も発現が上昇しており,組織切片の観察で多糖類が観察されたこととの整合性が得られた. これらの成果について,国際学会である Gordon Research Seminar, Gordon Research Conference および第62回応用動物昆虫学会大会において研究発表を行い, Gordon Research Seminar では最優秀発表として選出された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ノコギリカメムシが後脚共生器官および卵表面で特定グループの糸状菌と共生する機構を解明するため,2017年度に行う予定であった組織学的観察と RNA-seq による発現変動遺伝子の解析を予定通り行った.その内,RNA-seq は完了したが,観察するはずであった未成熟雌や終齢幼虫の後脚の観察には至っていない.一方,2018年度に行う予定であった,卵殻表面の物質を溶出する方法の条件検討を行い,卵表面で糸状菌の維持や選択に関わる物質を溶出する手がかりを得た.これらの進捗を総合的に見て,おおむね予定通りに研究が進展しているものと自己評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は後脚共生器官で高発現していた遺伝子の機能解析と,卵表面の物質の解析を行う. 遺伝子の機能解析については,RNA-seq の解析で得られた共生に関与していると推定される候補遺伝子を RNAi でノックダウンし,どのような形質が現れるか観察する予定である.すでに実験室内でノコギリカメムシを卵から成虫まで飼育することに成功しており,その過程で糸状菌が繁茂する季節が越冬後であることもわかっている.そこで,野外から採ってきたノコギリカメムシに産卵をさせて幼虫から飼育し,羽化した成虫に疑似的な休眠を経験させて,休眠から覚ます際に dsRNA のインジェクションを行うことで,共生に関与していると可能性がある候補遺伝子をノックダウンし,共生菌の種類や量の変化といった形質を観察する.また,特に重要な遺伝子については,FISH法を用いて発現部位の特定を行う. 卵殻表面の物質の解析には,物質を破壊せずに抽出することと,それらを単一の物質に分離することが必要である.抽出に関しては,既に尿素-メルカプトエタノールを使用することで卵殻の表面が溶解することを見出しており,春先に大量の卵が採れるようになった後に抽出を行う予定である.抽出された物質はアクリルアミドゲルを用いた電気泳動によって分離し,MSを使って物質の同定を行う.同定された物質が合成可能であれば,人工的にそれらの物質の合成を行い,機能の解析を行う予定である. また,これまでの進捗で得られた成果の論文化も進めていく予定である.
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Research Products
(3 results)