2017 Fiscal Year Annual Research Report
インフルエンザウイルスのゲノムパッケージングにおけるM2タンパク質の機能解析
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17J00495
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山形 優太朗 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | インフルエンザウイルス / ゲノムパッケージング |
Outline of Annual Research Achievements |
インフルエンザウイルスのゲノムパッケージングは、感染後期において宿主細胞の核内で新規合成された8種類のゲノムRNPが形質膜直下に輸送され、インフルエンザウイルス由来のタンパク質HA, NA, M1, M2が集積したエンベロープに包まれて子孫ウイルス粒子が形成される際に起こる。膜貫通型タンパク質M2の細胞質領域はRNPが子孫ウイルス粒子に取り込まれる過程で重要な役割を担うと考えられているが、その詳細な分子機構やM2とRNPの相互作用機構については未だ解明されていない。そこで、AFM(原子間力顕微鏡)による解析と生化学的手法を組み合わせ、ゲノムパッケージングにおけるM2とRNPの分子レベルでの相互作用機構の解明を目的とした研究を行った。この研究を通して感染後期におけるM2タンパク質の機能を解析し、インフルエンザウイルスのゲノムパッケージングにおけるM2タンパク質の役割の解明を試みた。 1年目は「M2細胞質領域変異の探索」を主な課題とした。先行研究を見直し、ゲノムパッケージングへの関与が示唆されたM2細胞質領域変異をいくつか発見したため、これらの探索を進めた。その結果、M2細胞質領域の末端から22アミノ酸を欠失させた変異体ウイルスにおいて、先行研究と同様にウイルスの力価が大きく低下することを確認した。また、蛍光タンパク質を付加したM2変異体を発現するウイルスの作製や、M2細胞質領域と宿主因子との相互作用解析等、様々な手法を用いてM2細胞質領域の機能を解析するための実験系の構築を積極的に進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先行研究を調べ直した結果、ゲノムパッケージングへの影響が示唆されたM2細胞質領域変異をいくつか発見したため、当初予定していたM2細胞質領域ランダム変異探索を、先行研究で報告されたM2細胞質領域変異の探索に変更した。先行研究で報告されたM2細胞質領域変異体インフルエンザウイルスをリバースジェネティクス法で合成し、M2発現MDCK細胞で培養してレスキューした後、通常のMDCK細胞で培養した。同様の条件で野生型ウイルスをMDCK細胞で培養し、プラークアッセイで野生型と変異体の力価を調べて比較した。その結果、M2細胞質領域の末端から22アミノ酸を欠失させた変異体(d22変異体)で、先行研究と同様に力価が大きく低下することが確認された。 また、M2細胞質領域変異によるゲノムパッケージングへの影響を調べるための実験系の構築を進めた。先行研究で用いられた蛍光融合タンパク質発現ウイルスの作製手法を基にして、赤色蛍光タンパク質mCherryを付加したM2タンパク質と、緑色蛍光タンパク質EGFPを付加したPAタンパク質を発現するインフルエンザウイルスの作製を進めている。 さらに、ゲノムパッケージングにおけるM2細胞質領域の役割をより多面的な観点から調べるため、細胞内におけるM2細胞質領域と宿主因子との相互作用を解析する実験系の構築も進めた。N末端にFlagタグを付加したM2(Flag-M2)及びM2d22変異体タンパク質(Flag-M2d22変異体)を発現するプラスミドを293T細胞で発現させて免疫沈降する。Flag-M2またはFlag-M2d22変異体とともに免疫沈降されたタンパク質をマス解析で調べて比較することで、M2細胞質領域が相互作用する宿主因子を同定する。現在、Flag-M2またはFlag-M2d22変異体発現プラスミドの作製や、免疫沈降の条件検討といった、実験系の構築を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、ゲノムパッケージングに関わるM2細胞質領域変異の探索や、M2細胞質領域がゲノムパッケージングに与える影響を解析するための実験系の構築を主な課題として、研究を進めた。平成30年度以降は探索した変異や構築した実験系を用いて、インフルエンザウイルスのゲノムパッケージングにおけるM2細胞質領域の機能の解析を本格的に進める予定である。昨年度の研究では、学会や学会誌等で発表できるような研究成果を充分に得ることが出来なかった。この反省を踏まえて、本年度は単に研究を進めるだけでなく、研究を通して得られた成果を学会や学会誌等を通して外部に積極的に発信していけるように心がけたい。本研究計画の最終目標である「インフルエンザウイルスのゲノムパッケージングにおけるM2タンパク質の役割の解明」を目指し、研究と研究成果の発信の両方に精力的に取り組む予定である。
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