2017 Fiscal Year Annual Research Report
耳石の酸素安定同位体比と海洋同化モデルを用いたマイワシの資源変動機構の解明
Project/Area Number |
17J00556
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
坂本 達也 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
|
Keywords | マイワシ / 耳石 / 酸素安定同位体比 / 海洋同化モデル / 数値計算 / 個体ベースモデル / カリフォルニアマイワシ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の最終的な目的は、環境変動とマイワシ資源量変動との関係を明らかにすることである。そのために耳石の化学組成と海洋モデルを用いた、マイワシ個体の回遊履歴を高精度で推定する手法を開発する。そしてその手法を用いて、マイワシが仔稚魚期に経験した環境の経年変化を明らかにし、生残率の経年変化と比較する計画である。本年度は回遊履歴推定手法の開発と、耳石の酸素安定同位体比測定データを蓄積することを行った。手法開発では、本格的な数値シミュレーションとなる、個体ベースモデルを用いた新しいスキームを導入した。具体的には、海洋同化モデルFRA-ROMSによって再現された流速場の中で仮想個体をランダムに泳ぎ回らせ、酸素安定同位体比分析値と整合的な経路を探索した。この推定を親潮域で採集した0歳魚について行ったところ、高い整合性を示す経路が特定領域に集中しており、この手法により個体ごとの詳細な回遊履歴を確率論的に把握できることが明らかになった。一方データ蓄積では、1986-2006年に漁獲されたカリフォルニアマイワシ1歳魚の耳石標本計104個体について、耳石の輪紋解析によって成長履歴を解析後、酸素安定同位体比を分析した。またカリフォルニア海流域を毎年調査している米国機関CalCOFIへの依頼によって同海域の海水標本を入手することに成功し、バックグラウンドとなる海水の酸素安定同位体比を分析した。その結果、カリフォルニアマイワシの仔稚魚期の経験水温と成長速度は正の相関関係になっていることが明らかになり、水温上昇が直接的に資源増加につながっている可能性が示唆された。今後、日本太平洋沖で採集されたマイワシに関する分析を進めこの結果と比較していくことで、マイワシ属一般に通じる資源増加メカニズムに関する仮説を展開していく予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画は、1.マイワシ個体の仔稚魚期の回遊経路を推定する手法の開発、および2.異なる年に成育した個体の耳石同位体比データを蓄積する、ことであった。1については、水温・塩分の指標となる耳石の酸素安定同位体比を高解像度で分析する技術はすでに確立されていた。しかしそれを解釈する方法については、2変数を同時に処理する困難さゆえに、世界的に見ても十分に研究が進んでいなかった。そこで本年度は、回遊モデルを用いた数値シミュレーションを導入し、回遊シミュレーションによる計算値と実際の分析値との比較を行った。具体的には、スパコンを用いて、マイワシがランダムな方向に遊泳した軌跡を大量に計算し、その中で耳石酸素同位体比の分析値を再現できるような経路を探すというスキームを開発した。このスキームを用いて、親潮域にて採集したマイワシ0歳魚に対して適用したところ、確率論的ではあるが、回遊経路と呼べるものを推定できることが明らかになった。2.については、1986-2006年に漁獲されたカリフォルニアマイワシ1歳魚の耳石標本計104個体について、生後150日までに形成された領域を30日という非常に高い解像度で酸素安定同位体比分析を行った。また、耳石の酸素安定同位体比から経験した水温を計算するために必要な海水の酸素安定同位体比も、米国調査機関CalCOFIの海水標本提供により測定することができた。これによりこの海域での仔稚魚期の経験水温と成長速度の関係、および経験環境と生残率の経年変動の関係について議論する上で、量的にも質的にも十分量のデータを蓄積することができた。日本近海のマイワシについても、当初予定していた、2009-2014年級群計96個体に関する耳石同位体比分析は完了した。以上のことから、当初立てた計画通りに、順調に研究が進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度から蓄積してきたデータを、本年度開発した手法を用いて解釈することで、マイワシの資源変動に対して各環境要因がどの程度寄与したかを明らかにしていくことが主要な方策となる。具体的には、測定した耳石の酸素同位体比データを、海洋モデルを用いて回遊履歴データに変換する。さらにその回遊履歴データと衛星由来の海洋環境データと比較することによって、マイワシ個体の経験環境を推定する。これを各年級群について行い、各年級群の経験環境と資源量変動を比較することで環境要因の資源変動に対する寄与率を明らかにする。一方で、日本近海のマイワシの水温と成長速度の関係については、先行研究とは一見異なった結果が現段階で得られつつある。そのため今後、より頑健な結果を得るために分析数を増やし、2005-2008年級群についても分析していく。さらにその結果を、一般化線形モデル等などを用いて統計モデル化し、そのモデルによって先行研究の結果を説明すること目指す。
|
Research Products
(6 results)
-
-
-
-
[Presentation] Reproducing migration history of Japanese sardine using otolith d18O and a data assimilation model2018
Author(s)
Tatsuya Sakamoto, Kosei Komatsu, Kotaro Shirai, Yasuhiro Kamimura, Chikako Watanabe, Atsushi Kawabata, Michio Yoneda, Toyoho Ishimura, Tomihiko Higuchi, Takashi Setou, Manabu Shimizu
Organizer
6th International Otolith Symposium in Taiwan 2018
Int'l Joint Research
-
[Presentation] Reproducing migration history of Japanese sardine using otolith d18O and a data assimilation model2017
Author(s)
Tatsuya Sakamoto, Kosei Komatsu, Kotaro Shirai, Yasuhiro Kamimura, Chikako Watanabe, Atsushi Kawabata, Michio Yoneda, Toyoho Ishimura, Tomihiko Higuchi, Takashi Setou, Manabu Shimizu
Organizer
JpGU and AGU to Collaborate in JpGU Annual Meetings in 2016 and 2017
Int'l Joint Research / Invited
-