2017 Fiscal Year Annual Research Report
Formation of the "Literature of Fact": Development of the Literary Avant-garde of the Latter Period
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17J00586
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
古宮 路子 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | ロシア・アヴァンギャルド / 事実の文学 / レフ / ロシア革命 / ネップ / ロシア文学批評理論 / 生成研究 / オレーシャ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の研究実績としてまず挙げられるのは、関連するテーマについてのパネルディスカッション"Революционный импульс: Искусство, наука, идеология" (日本ロシア文学会第67回大会、 於上智大学、2017年10月15日)への司会としての参加である。この企画は、2017年がロシア革命100周年であることにちなむものであった。パネルへの参加を通じて、「事実の文学」と革命との関わりが明確化されると同時に、「レフ」の芸術実践の今日性もまた、明らかになった。 本年度にはまた、「事実の文学」と同時期の1920年代後半にソ連文壇で活躍した作家オレーシャについて、国際学会で報告"Автобиографический миф Ю. Олеши" (VI ежегодная конференция молодых ученых и аспирантов "Автобиографический миф в литературе и искусстве", Москва, 26 апреля 2017)を行なった。 オレーシャのテーマでは2本の論文を完成させた。1つは、ロシア革命についての国際論集"Русская культура под знаком революции" に掲載の"Тип коммуниста и отклонение от него: образ Андрея Бабичева в романе Ю. Олеши 'Зависть' " (2018) である。もう1つは、上述の国際学会の成果に基づいた"Автобиографический миф в романе Ю. К. Олеши 'Зависть' " で、モスクワの世界文学研究所が刊行する学術誌"studia litterarum" への掲載が決定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
採用第1年目の本年度は、ロシアでの1次資料の収集、日本での2次資料の検証を進めた。また、国際的な場で関連研究者と交流を行った。 ロシアでの1時資料の収集のために、2017年8月21日から9月16日、2018年3月3日から3月9日の2度にわたり、モスクワに滞在した。モスクワでは、ロシア国立図書館、ロシア国立公共歴史図書館、ロシア国立文学芸術文書館にて、資料収集を行なった。収集した資料は、主に次のものである。1. 「事実の文学」を提唱した文学グループ「レフ」の機関誌『レフ』『新レフ』、2. 文壇で「レフ」と対立していたプロレタリア系作家グループ「ラップ」の機関誌『文学の哨所にて』および会議の報告集、3. 知識人に親和的な立場から「レフ」の方針に対抗していたグループ「峠」派の刊行物、4. 「レフ」の主要メンバーであるトレチヤコフとブリークに関するアーカイヴ資料。これらの資料が手に入ることによって、「事実の文学」成立の背景にあった同時代の文壇の議論の経緯が検証できるようになった。 2次資料に関しては、「事実の文学」についての先行研究を中心に精読を行った。この作業によって、「レフ」グループの成立から消滅までのプロセスが明らかになり、グループが「事実の文学」の総まとめとして最終的に刊行した文集『事実の文学』についての理解が深まった。また、「レフ」グループの方向決定に大きな影響を与えたフォルマリスト達についても、特にグループとの関わりという観点から資料調査を行なった。 2017年4月には、モスクワの世界文学研究所を訪れ、「レフ」グループをはじめとするネップ期のソ連批評理論史についての、ロシアの専門家と交流を図った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においては、「レフ」グループの19世紀古典文学に対するスタンスに着目する。これまで資料調査を行う中で明らかになってきたのは、「事実の文学」の成立プロセスに大きく影響していたのが、同時代のソ連文壇において古典作品に大きな意義が与えられていたという実情である。そもそも「レフ」は、アヴァンギャルド芸術一般に共通する特徴としての反伝統主義を備えている。しかし、「レフ」と対立していた「峠」派や「ラップ」は、革命後の社会にふさわしい新たな文学を作り出そうとするにあたり、古典作品を手本とする方針をとった。「レフ」は当然、こうした古典回帰の風潮に激しく反発し、新たな文学を未だかつてなかった全く新しいスタイルのものにしようとした。その中で、「レフ」の同人達がとった方針が、フィクションの否定であった。人工的なストーリーを文学から排除し、実際に起こった出来事や実在の人物だけを題材として取り上げる方針に、やがて「事実の文学」という名前が与えられた。つまり、「事実の文学」成立にあたっては、文壇の復古主義に対する反動が極めて重要な契機であったといえる。研究の成果は、国内外の学会での口頭報告のほか、論文として学術誌で発表する。 また、本研究に関連して、ネップ期のソ連文壇で展開された、「レフ」、「峠」派、「ラップ」などの諸グループ間でのヘゲモニーをめぐる派閥抗争をテーマとした報告を、申請者が代表を務めるワークショップ「ポスト革命期ロシア文化のまなざしーー革命から大テロルまで」(2019年3月開催)にて行う予定である。 平成29年度同様、今後も年に1-2回、ロシアに滞在し、1次資料を中心に調査・収集を行う。また、現地研究者との交流を通じて、関連研究の世界的動向について情報を得、本研究の成果を海外に向けても発信する。
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Research Products
(4 results)