2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J00739
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
浅野 康司 東京大学, 経済学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 金融セクター / 金融危機 |
Outline of Annual Research Achievements |
アメリカの金融セクター、とりわけ急速に成長したシャドーバンキングは、近年の金融危機において、中心的な役割を担っていた。論文「Ignorant Experts and Financial Fragility」では、このような金融セクターの主要な活動であった貸借取引(レポ取引)に注目し、その取引で用いていた担保(ABSなどの証券化証券)に関する情報収集インセンティブと情報収集能力(financial expertise)に対する投資の関係性を理論的に分析している。この論文の貢献は、以下の2点を示したことにある。(1)金融セクターは高い水準のfinancial expertiseをもつという評判を築くことで、実際に情報収集を行うことなく高い報酬を受け取ることができる。(2)担保に関する情報収集を行わないことで、質の悪い担保も取引で用いられるようになり、金融市場での取引は拡大することになるが、financial expertiseに対する投資の結果、担保に関する悪いニュースに対して非常に敏感になるため、たとえささいな悪いニュースであっても、金融セクターはすぐに情報収集を行い始め、質の悪い担保を用いた取引はすべて停止してしまう。
(1)の結果は、金融セクターにおける報酬の急激な上昇と、サブプライムローンなどの質の低い資産を含んだ証券化商品の普及を説明していると考えられる。(2)の結果は、金融セクターのfinancial expertiseに対する投資により、小さなショックが大規模な貸借取引の縮小をもたらすことを示唆しており、近年の金融危機で観察された事柄と整合的である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
金融仲介機関の行動がマクロ経済に与える影響を分析するため、その基本的なモデルをつくることを今年度の目的としていた。現在、主要なメカニズムを明らかにするためのシンプルなモデルの作成、およびその解析的な分析まで完了しており、計画はおおむね順調だと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、モデルのさらなる拡張が課題となる。現在の静学モデルは非常にシンプルであり、分析が容易であるが、より豊富な含意を導くためには、動学モデルに拡張する必要がある。しかし、情報収集インセンティブと情報の波及についての動学分析は基本的に困難であるため、先行研究の調査を丹念に行い、より高度な分析手法を身につける必要がある。また、シミュレーション分析が動学分析には極めて有用であるため、シミュレーションの手法も引き続き身につけていく予定である。
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Research Products
(6 results)