2018 Fiscal Year Annual Research Report
Reception, development and influence of the Mehod Acting in American theater
Project/Area Number |
17J00741
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山本 博士 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 演劇 / 演技論 / 演出家 / 歴史叙述 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は演技教育者リー・ストラスバーグの演技論「メソッド」を歴史的な文脈を踏まえ、その理論を多角的に考察することを目標としている。 前年度はストラスバーグの演技論および演技教育では、演出家が演技教育者のモデルとされている点に注目することで「メソッド」の理論的な特徴を明らかにしたが、本年度は、演出家制度についてより理解を深め、具体的な影響関係の考察を行うべく、ストラスバーグが自身に強い影響を与えた人物として挙げる演出家エドワード・ゴードン・クレイグの研究に着手した。クレイグの唱えた「超人形」論を従来解釈されてきたような俳優論としてではなく、絶対的な権力を有する演出家が前提とされた演出家論として解釈することを手掛かりに、1910年代に出版されたクレイグの著作の再解釈を行い、ストラスバーグへの影響を考察するとともに、より広く19世紀以降の演出家制度の出現へのアプローチの端緒を開くことができた。 また上記の研究の過程で、その演出家の理念には過去の演劇に対する特有の歴史認識が伴うという構造を突きとめた。クレイグは過去の演劇や劇場についての調査を行い論考を複数執筆したが、同様の傾向はストラスバーグの著作にもみられる。この構造の解明は、実際に観ることのできなかった演劇あるいは演技の記述はいかにして可能なのか、もはや観劇経験が不可能であるにもかかわらずなぜ魅かれてしまうのかといった、表現媒体自体が記録媒体としての性質をもたない舞台芸術においていまなお問われるべき課題に対し、批評的な視座を提供するだろう。 2019年2-3月には英国へ赴き、大英図書館やロンドン図書館にて、出版部数の限られた書簡集をはじめとするクレイグに関する資料収集行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の進展にともない、アメリカ演劇におけるストラスバーグの演技論の形成や受容、影響から、より広範に、演出家制度の出現以降の西洋演劇におけるストラスバーグの演技論の特殊性の探求へと必然的に力点が移行し、新たな資料収集と解読に多くの時間が割かれたため、残念ながら成果の公表には至らなかった。しかし、資料収集を精力的に行い、クレイグの著作の分析によっていくつかの主要な問題系を抽出し、ストラスバーグを広範な文脈において論じる視座を用意するという本研究の課題を達成したと考えられるため、研究自体はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究によって二つの問題系、すなわち19世紀以降の演出家制度および演劇の歴史叙述がストラスバーグを広範な文脈において論じるさいに不可欠であることが判明した。来年度は、前者に関しては前年度から引き続き、エドワード・ゴードン・クレイグの著作および実践における演出家概念の分析を通して、ストラスバーグへの影響関係のより鮮明な解明とともに、演出家という役職およびその理念の持つ歴史的な特異性を把握する。また同時に本年度の研究の過程で浮上してきた歴史叙述の問題については、主にクレイグとストラスバーグの著作を中心として適宜同時期の演出家による歴史叙述との比較を交えて研究を進めることによって、なぜ過去の演劇の叙述が要請されたのか、そこでいかなる方法が採られているのか、それによって何をもたらそうとしたのかといった一連の問いを吟味しつつ、演出家の理念と歴史叙述が取り結ぶ関係性を検討することが課題である。その過程で得られた成果は随時、口頭発表あるいは論文で公表する。
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Research Products
(1 results)