2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17J00743
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉岡 信行 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | カイラル超伝導体 / 熱ホール効果 / ニューラルネットワーク / 量子相図 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. ノードを伴う3次元カイラル超伝導体における内因性熱ホール効果 時間反転対称性の自発的な破れ(BTRS)に起因して、クーパー対が有限のスピン角運動量を持つものを、「カイラル超伝導体」と呼ぶ。超伝導性と有限磁化の共存という、数ある非従来型超伝導体の中でもひときわ異彩を放つカイラル超伝導性に関して、検証方法がいくつか考案されてはいるが、いずれの物質も合意を形成するには至っていない。 BTRSの決定的な証拠となりうるのは、自発的な熱ホール効果、すなわち磁場印加のない状況で熱勾配に対し垂直方向に温度差を生ずる現象の観測である。この事実を念頭に、熱ホール係数に対するBerry曲率の寄与を調べることで、BTRS以外にも得られる付加的な情報を洗い出し、ペアリングに強力な制限が加わることを明らかにした。本研究の結果は国内外の学会で発表されたほか、国際的な学会誌に投稿された。 2. 統計的対称性の回復による乱れたトポロジカル超伝導体の相判定バルクの電子/準粒子スペクトルにノードが存在せず、波動関数の大域的な性質を反映する「トポロジカル不変量」により特徴付けられる系は、トポロジカル絶縁体/超伝導体と呼ばれている。乱れのある系のトポロジカル不変量は、非自明な問題であり、理論的理解が限られているため、熱輸送を含めた、有限温度における物理的性質を探る土台として、絶対零度における相の判定方法を構築する必要がある。 本研究では、画像認識などで特に有効性の認められている、ニューラルネットワークの手法を新たに導入し、独立な手法との比較・整合性の確認を行った。我々の提案した手法は、転送行列法・非可換幾何による手法と整合する。特に、相境界が近づく場合、転送行列法による検出には、多大なる数値的労力が必要とされるが、ニューラルネットワークを用いた場合にはこの問題を回避できる。本研究の結果は国際的な学会誌に受理された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
第一の研究成果である、カイラル超伝導体における熱ホール効果の研究に関しては、概ね当初の想定通りの進捗具合が得られた。3次元物質における熱ホール係数の量子化は必ずしも観測されない一方、高次補正項に内在するノードの情報は、クーパー対のペアリングという、本質的な性質を引き出す可能性を持つことを明らかにすることができた。トポロジカル相における熱流から引き出される情報として、もっとも豊富な物理現象を扱うことで、カイラル超伝導体の検証という未解決問題に対し、理論的な貢献がなされた。本研究が、スイスのチューリッヒ工科大学のManfred Sigrist教授との国際共同研究の賜物である点もまた、研究代表者にとって非常に大きな経験となった。
第二の研究成果である、機械学習を用いた量子相図の決定は、完全に当初の予定を外れた、思いもよらない結果である。機械学習、特にニューラルネットワークの有用性が実世界で認知され始めた今、物性物理学への応用可能性の探索は急務かつ誠に実りの多い試みである。知られているだけでも、トポロジカル相を含めたエキゾチック相の分類、変分波動関数の表現、モンテカルロシミュレーションの高速化など、非常に幅広い応用の可能性がこれまでに示されている中、乱れのある系への応用という、角度の異なる切り口からの研究を形にすることができた。本研究の結果は国際的にも広く受け入れられており、セミナーや国際会議での発表などで忌憚ない意見を交わす経験を積むことに繋がった。自身の研究者としてのキャリアを押し広げる形となったことに、大きな達成を感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題では当初より扱う予定であった3つの研究内容のうちの一つ、パイロクロア格子上の熱特性の問題に取り組む。特に反強磁性的な古典イジング型の相互作用を仮定すると、三次元格子状の幾何学的フラストレーションが現れるため、通常の方法では特徴的な低温の振る舞いを捉えることができない。指数関数的な数の状態が縮退する一方で、熱緩和が遅く平衡状態を実現できないことから、正しい物理的現象を記述できないという問題がある。このことを念頭に、ループアップデートによる緩和の高速化を目標としたアルゴリズム開発を行う。具体的には、機械学習による緩和時間の短いスピン配置更新法を構築し、物理量の効率的な数値実験を実現する。初めのステップとしては、三角格子やカゴメ格子など、フラストレーションのある2次元系におけるループアルゴリズムをボルツマンマシンを用いた包括的な方策にマップする。これは、現在知られた更新法を全て含む、全体的な枠組みとなることが分かっている。その性能を比較・検討したのち、三次元系への適用に進む。ループの構成法に内在する問題を解決することで、シングルスピンフリップ法の難点を超克した、包括的なアルゴリズムが構築される。 その後、量子モンテカルロ法への応用例を参考に、上で開発したアルゴリズムの拡張を試みる。すなわち、「詳細釣り合い条件を満たしつつ、ループによる非局所的なスピン更新」の概念を適用する。ボルツマン重みへの拘束条件を考慮する必要があるため、全く同一の形では適用できない。そのため、学習に用いる「機械」には適切な処置が必要となる。
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Research Products
(8 results)