2018 Fiscal Year Annual Research Report
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17J00743
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉岡 信行 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 物性物理 / ニューラルネットワーク / ボルツマンマシン / 変分モンテカルロ / 古典モンテカルロ |
Outline of Annual Research Achievements |
2018 年度には、3 本の原著論文の出版、6 回の学会発表、2 回のセミナー講演を行なった。 特に精力的に取り組んだのは、(1) 量子開放系における非平衡定常状態の近似表現、(2) 一般化イジング模型の熱平衡状態に関する厳密表現の2つのテーマである。特に、(1)については、研究計画当初には想定していなかった内容であるが、新奇領域に身を投じたことで、当初の計画を包括的に含むような目標再設定が可能となった。具体的な実績について、以下に詳しく述べる。 (1)では、ボルツマン機械型の表現関数を用いて、量子開放系の非平衡定常状態を変分的に求める手法を開発した。近年は、量子開放系のエンジニアリングに関する実験的進展が大きいことから、定常状態に関する理論的な探索手法の構築が急務である。一方で、混合状態を扱う以上、次元爆発が速やかに起きることから、系全体のヒルベルト空間を扱わず、効率的な近似表現が必要とされる。本研究では、ニューラルネットワークにより量子エンタングルメントの大きな密度行列を表現可能なこと、1次元・2次元的なモデルにおいて、変分状態を最適化することで高精度に定常状態を近似可能なことを示した。 (2)では、古典系における熱平衡状態を、ボルツマン機械により厳密に表現し、モンテカルロ・シミュレーションの高速化に応用可能であることを示した。熱平衡状態における各状態の重み、つまりボルツマン因子の表式が変わらないような補助スピンを導入する方法を確立すれば、多体相互作用する任意のイジング模型のボルツマン因子を、ボルツマン機械の表現関数により書ける。さらに得られた表式を、大域的更新法に応用すると、相転移点近傍における臨界減衰を軽減できることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に研究代表者は、トポロジカル超伝導体の量子相図を調べるために機械学習の手法を開発した。この研究は注目を集め、また物性物理におけるニューラルネットワークや機械学習の有用性が認識され始めたことから、研究代表者は当初の研究テーマから目標を設定し直し、上記のように(1) ボルツマン機械を用いた量子開放系の定常状態の近似表現、 (2) 一般化イジング模型の熱平衡状態に関するボルツマン機械による厳密表現に取り組んだ。前者はボルツマン機械による高い表現能力を活用したことから注目を集め、発表直後からすでに複数のプレプリントなどに引用されている。また、(2) では、統計力学の長い歴史の中で埋もれていた変換手法を再発見し、ボルツマン機械の定式化に新たな視点を与える研究となったことから、現在までの本研究課題はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、昨年度に開発したニューラルネットワーク状態による近似手法の研究を引き続き推し進め、トポロジカル相を孤立系で発現させるような系に散逸を導入した場合に、非自明な非平衡定常状態が実現されうるかを探索する。 外界との相互作用により非ユニタリな時間発展をする系を「量子開放系」と呼ぶ。相互作用が詳細釣り合い条件を満たす場合には長時間の後に熱平衡状態への緩和が生ずる一方で、一般には非自明な定常状態に落ち着くことも許される。特に近年、量子開放系のエンジニアリングに関する実験的な進展が大きいことから、非平衡定常状態に関する理論的な探索手法の構築が急務であるなか、昨年度の変分状態の開発により、有限サイズの量子スピン系における進展が見込まれている。 本年度は具体的には、テンソルネットワーク状態による記述が困難であるような非平衡状態に関する研究を行う。例えば、レーザー照射により基底状態および高エネルギーの励起状態を用いた2準位系を構成する「リュードベリ原子」を用いたリュードベリ・ブロッケード模型におけるZn相の発現や、量子状態準備(Quantum State Preparation)プロトコルにより実現されるAKLT状態の安定性などを調べる。
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Research Products
(9 results)