2018 Fiscal Year Annual Research Report
コモン・ロー法格言集におけるローマ法格言の利用と影響について
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17J00760
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松本 和洋 京都大学, 法学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 法格言 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主にイングランドにおける中世から近代(19世紀末まで)にかけての法格言の利用に重点を置き、史料としての判例記録(Year Booksおよび近代の判例集)を検討したイングランドの法学の展開に大きな役割を担ったインズ・オブ・コートの登場(1340年ごろ)以前に、ローマ法およびカノン法の学識がマクシム(法格言)という形でコモン・ロー形成期の法曹たちに定着していく傾向のあることが同時期のYear Booksの検討をさらに進めたことで、前年度より確証を深めることができた。その中で、こうした法格言のうちでも、今日とりわけローマ法との関連が示唆されるものに対しては、現在のイングランド法制史学研究の出発点である19世紀末に改めて着目されたことを確認した。これには、法格言あるいは法諺と訳されるところの「マクシム」としての利用であるがために、ローマ法文がその源にあることに着目するか、あるいは裁判所での利用によるコモン・ローへの吸収を重視するかといった観点の違いを生じうるものである。本研究に取り組むきっかけとなった、ローマ法およびカノン法(教会法)の学識も援用しながら当時形成されつつあったイングランド法を体系的に論じようとした法書『ブラクトン』への研究が19世紀末より展開されてきたが、その中で同書のローマ法的要素の例として法格言が取り上げられたのも、上記の2つの観点が同書に包含されていることに基づくと言える。同様の例として、中世より定着した法格言の一つである"volenti non fit iniuria"(今日でも不法行為に関する法理として一定の地位を持つ)も、『ブラクトン』を含め13世紀より長らく利用されてきたが、その源がローマ法文にあることが(表面的であっても)強調されたのは19世紀に入ってからであることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では当初計画していた近代イングランドにおける法格言集編纂の軌跡を検討することに加えて、一部の法格言につき、イングランド法におけるその意味内容の理解が変化・拡大していったこと、また、特に今日の研究の出発点となる19世紀において、イングランド法とローマ法との影響関係を示すものとして法格言が取り上げられていくことを確認した。一方で、これらをイングランド法学にどのように位置づけるかについては、イングランド法学史に対する更なる研究が必要であり、その結果と合わせて一連の大きな図像化を示した上で、昨年の成果と共に順次公表していくことが課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
準備中最終年度に当たる平成31年度(令和元年度)では、特にイングランド法学が近代以降どのように形成されてきたかについての先行研究及び史料の検討を重点としつつ、「現在までの進捗状況」でも示したように、これまでの成果を踏まえた「イングランド法学における法格言(特にローマ法及びカノン法との関連があるもの)の位置づけ」を明確にすることが必要であると考える。これは法格言の単純な出典調査ではなく、そうした法格言がどのような学問的前提のもとで各時代及び対象において利用されてきたのかを検討することとなり、こうした学識継受あるいは移植としての法格言の利用と定着及び、その担い手たちが考えていたイングランド法学という概念との交錯について、一定の結論を導くことを目指す。
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Remarks |
アウトリーチ活動として、京都大学で2018年9月22日に開催された「アカデミックデイ2018」に「法の考え方の共有と影響」と題したポスター発表を出展した。
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Research Products
(2 results)