2017 Fiscal Year Annual Research Report
グスタフ・クリムト晩年の女性肖像画における中国的要素とパトロネージの統括的研究
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17J00821
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
仲埜 登志子 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | グスタフ・クリムト / 肖像画 / ウィーン / オーストリア / 中国美術 / 異文化受容 / パトロン |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度(平成29年度)は、グスタフ・クリムトが中国美術を受容した過程を再構成し、彼の肖像作品における中国美術の要素について検討するため、主に20世紀初頭のドイツ語圏における中国美術の蒐集と研究といった点に焦点を当てて調査を行なった。具体的な調査活動は以下の通りである。 1.画家の晩年における代表的肖像作品である《フリーデリケ・マリア・ベーアの肖像》(1916年制作)に関する新たな知見をまとめ、第70回美術史学会全国大会にて口頭発表を行った。その発表に基づく内容を同学会の機関誌『美術史』に投稿し、採択された。この発表及び論文では、これまで具体的に分析されることのなかった肖像画背景の人物群像に着目し、図像の着想源と主題について詳細な分析を行った。その結果、看過されていたクリムトの中国美術への関心の高さを明らかにし、作品の持つ歴史的意義を示すことが出来た。この研究成果をより確信的なものにすべく、2018年2月に上記の作品が所蔵されているテルアビブ美術館にて作品調査を行った。 2.2017年秋から作品調査、資料収集を目的にウィーンに滞在した。「ウィーン学派」を中心とした美術史研究者達によって20世紀初頭から本格的に開始された東洋美術研究、及びウィーンにおける中国美術の蒐集に関する文献史料を収集した。さらに、オーストリア応用美術館(通称MAK)の東洋美術部門の学芸員の方の協力を得て、同美術館の所蔵する中国美術コレクションの作品調査を行うことが出来た。2018年3月には、ドイツにおける東洋美術研究の中心地であった3都市(ベルリン、ハンブルク、ケルン)に滞在し、各都市の美術館が所有する中国の美術品を実見し、文献史料の収集を行った。クリムトが1909年に訪れたパリのギメ美術館でも、当時の展覧会カタログを中心に史料を収集し、画家が実見した可能性のある作品について調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の主要な業績である《フリーデリケ・マリア・ベーアの肖像》に関する成果発表は、予定していた通りに行うことが出来た。さらに、美術館での実地調査により得られた新たな史料を参照し、加筆修正を加えた内容を欧文雑誌に投稿するため、現在準備を進めている。 ウィーンでの調査に関しても、文献資料の収集や美術館での実地調査、関連分野の研究者との面会など概ね順調に進んでいる。ただし、初年度は中国「美術」の受容に焦点を当てて調査を進めたため、文学・演劇・音楽など他の芸術的領域にも関わる包括的な中国文化受容に関する文化的動向や画家の晩年期に当たる第一次世界大戦前後のオーストリアについての時代考証といった部分が不十分になってしまった。その一方で、ウィーン応用美術館における中国美術の所蔵品の調査や、ドイツ諸都市の美術館及びギメ美術館での史料収集は予定より早く敢行することが出来た。 当初予定していた画家のパトロネージに関する調査も初年度は十分に進められなかったため、次年度の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き7月末までウィーンに長期滞在して調査を行う。日本帰国後は主にウィーンで収集した史料をまとめ、それを基にクリムト晩年の肖像画について考察を進める。具体的な計画は以下の通りである。 1.画家の晩年期に交流の深かったパトロン、及び肖像画のモデルとなった人物の調査を進める。肖像画を研究対象にする以上、画中に描かれた個々のモチーフだけではなく、描かれた女性達の人物像や作品制作を依頼したパトロン達に関する調査は、本研究における重要なテーマの一つである。そのため次年度では、クリムトのパトロネージに関する史料をウィーン滞在中に収集し、当該テーマを扱う研究者とも積極的に意見交流をはかる。 2.2018年はクリムト没後100年という節目となる年であるため、オーストリア国内外でクリムトに関連する展覧会が開かれ、出版物も続々と刊行されつつある。初年度は制作の背景についての考察が中心となってしまったため、個々の作品そのものを観察し分析するという点が疎かになってしまった。この貴重な機会を利用して、作品を可能な限り多く実見し、最新の史料や研究結果にも目を通す。 3.クリムトと同時代に活躍した文化人の中で、同様に中国文化に関心を寄せ自身の作品に応用した作家(フーゴ・フォン・ホフマンスタールなど)に関する個別研究を収集する。それにより、中国文化の流行と受容が美術の分野に限られたものではなく、大きな文化的ムーヴメントであったことを検証する。また、初年度に収集したドイツ・オーストリアにおける中国の美術工芸品の蒐集・研究に関する史料を、各美術館のオンライン・データベースと照会しながら整理する。それにより、当時のウィーンにおける中国美術をめぐる状況を明らかにし、クリムト個人の中国美術受容の実態を踏まえた上で、肖像作品における表現との関連性について考察を深めたい。
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