2017 Fiscal Year Annual Research Report
銅輸送チャネルの局所構造の解明:多量体および膜中での分光測定手法の構築
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17J00845
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
岡田 毬子 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 分光分析 / 脂質二重膜 / ペプチド / 金属イオン |
Outline of Annual Research Achievements |
一価銅選択的な銅取り込みタンパク質であるCtrについて、細胞外N末端領域にあるCys/Trpモチーフに着目し、構造機能相関を検討している。これまでの研究では、Cys/Trpモチーフと銅イオンの配位構造と、その結合定数を分光測定によって明らかにしている。 Cys/Trpモチーフと脂質二重膜との相互作用について、Red-edge excitation shift (REES)を用いて検討した。溶媒の粘性が大きい場合、短波長側での励起と長波長側での励起で蛍光ピーク波長が大きく異なるようになり、この差をREESと定義する。REESの値から、蛍光団近傍の粘性を見積もることができる。その結果、脂質二重膜(リポソーム)がある条件でのみ、Cu(I)を添加するとCys/TrpモチーフのREESの値が大きくなった。これは、銅の結合によって、Cys/Trpモチーフがより粘性の高い環境、すなわち脂質膜中に移行したことを示す結果である。 モチーフの膜中への埋没は、Stern-Volmer消光実験と蛍光寿命測定によっても確認した。アクリルアミドのような消光剤分子による消光の度合いから蛍光団の溶媒への露出度合いを見積もることができる。その結果、リポソームがある条件でのみ、Cu(I)を添加するとCys/Trpモチーフの消光度合いが減少した。 Cys/Trpモチーフが膜中へ移行するメカニズムは、銅の結合に伴うペプチド全体の疎水性の上昇であると考察している。円偏光二色性スペクトルおよびラマンスペクトルの測定により、モチーフが銅を結合すると、主鎖がランダムコイルからβシートへ変化することが示された。ペプチド結合間の水素結合形成によりペプチド鎖全体の疎水性が増すため、脂質膜との親和性が増すと考えられる。Cu(I)の結合に伴うペプチド鎖の埋没は、過剰な銅イオンの取り込みの抑制に関与していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、当初の計画では化学修飾を行ったCys/Trpモチーフを脂質二重膜上にアンカーし、脂質二重膜と相互作用したCys/Trpモチーフ分子の結合能や構造の変化について検討を行う予定だった。しかし、実際に合成した分子はリポソーム同士を凝集させてしまい、当初考えていたモデル系としては機能しないことが明らかになった。なぜペプチドによってリポソームが凝集してしまうのか、円偏光二色性スペクトルや蛍光スペクトルを測定し、ペプチド分子の構造と周囲の環境を考察する過程で、未修飾のペプチド分子が金属イオンの結合に伴って膜中へ埋没することを発見した。金属イオンをトリガーとして膜中へ移行するペプチド配列は、新しい人工タンパク質の合成や、金属イオン応答性に機能する医薬品の開発につながる重要な結果であると考え、これについて考察を進めた。結果として、ペプチドが銅イオンを結合して膜中へ埋没することを2つの手法を用いて示し、さらにそのメカニズムを明らかにすることができた。以上の結果は学会やシンポジウムでの発表において一定の評価を受け、原著論文にまとめて現在投稿中である。また今後この配列を用いて実際に新規の機能性分子を合成する計画を立てている。以上より、本研究は当初予定していた方向とは違うものの、おおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
Cys/Trpモチーフが銅イオンを結合して膜中に埋没することを利用し、銅イオンに応答して開くチャネルを合成する予定である。新しい人工タンパク質を設計し、合成する研究は、新しいモダリティの医薬品の開発につながる重要な研究であると考えられる。 L体とD体のアミノ酸が交互に並んだ配列をもつ6から12残基の環状ペプチドは、平面構造をとる。この分子は分子間で水素結合を形成して、環を積み上げていく方向に自己集合し、ナノチューブを形成することが可能である。このナノチューブは脂質二重膜中に移行し、膜を貫くように配向するとイオンチャネル活性を有することが知られている。この環状ペプチドにCys/Trpモチーフを修飾することで、銅イオンが無いとナノチューブは脂質膜中には移行せずチャネル活性を示さないが、銅イオンを結合することでナノチューブが脂質膜中に移行し、チャネル活性を持つような分子を合成する予定である。熱変性によって疎水性が変化するポリマーを環状ペプチドに修飾した系で同様の研究が行われており、作成予定のチャネルはその応用である。 まず、環状ペプチドにCys/Trpモチーフを修飾した分子を合成する。側鎖を保護したペプチドと、環状ペプチドのリジンのεアミノ基を縮合することで合成が可能である。次に、作成した分子がナノチューブを形成するかどうか、ラマン分光法を用いて評価する。アミドIバンドの波数およびバンド幅からβシート構造の形成すなわちナノチューブの形成を議論することが可能であると考えられる。チャネルの開閉は、pH応答性の蛍光色素を内包したリポソームを利用して評価する。具体的には、カルボキシフルオレセインを内包したリポソームの内外にpH勾配を発生させておき、チャネルが開いてリポソーム内のpHが変化した際の蛍光強度の変化で評価する予定である。
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Research Products
(3 results)