2017 Fiscal Year Annual Research Report
Numerical experiment of orographic precipitation using an atmospheric model for complex orography
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17J00879
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
武村 一史 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 重合格子法 / 保存性 / 地形性降水 / 複雑地形 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は本研究の目的の1点目である一般座標系、重合格子法を用いた急峻・複雑な地形上での計算を可能にすることを達成するために、その基盤となる気象モデル(Takemura et al. 2015, Atmos. Sci. Letter)の保存性の向上に取り組んだ。保存性とは離散化された計算においても保存量が適切に保存されているかを示すものであり、数値モデルの性能の指標の一つである。気象分野においては質量、運動量等の保存量に加えて保存量として水蒸気、雨滴などの水物質の質量の時間発展も計算する。そのため、本研究で計画している地形性降水の数値実験においても特に重要な指標である。これまでに開発したモデルでは重合格子法と呼ばれる複数の格子を重なり合わせて計算領域を表現する手法により急峻地形の表現を可能としている。しかし、格子間の情報交換として行う補間には非保存性補間法である双線形補間法を用いており保存性が保証されていないという欠点があった。これは、格子の重合領域において水物質の生成及び消失が起こる可能性があることを意味し、降水実験に悪影響を与える。そこで、保存性を保証するためにフラックスの補間を行う保存性補間法を開発したモデルへの導入を行った。導入した保存性補間法は重合格子法の一種であるYin-Yang格子用にPeng et al. (2006, Q. J. R. Meteor. Soc.)により提案された手法である。Yin-Yang格子はKageyama and Sato (2004, Geochem. Geophy. Geosy.)により提案された地球科学分野において用いられる手法であり、球体である地球を直交で一様な理想的な2つの格子を用いて表現する手法である。上記の手法を導入することで保存性の保証に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
計画当初は上記の手法をそのまま導入する予定であったが次の2点の問題点が生じた。 1点目は安定性の問題である。保存性補間法では格子境界上の流入・流出フラックスを補正することで保存性を保証している。導入の際にこの補正により格子境界において数値振動が生じ、計算の破綻へとつながった。Peng et al. (2006)では数値振動を抑制する働きを持つ移流スキームを用いているのに対し、Takemura et al. (2015) で開発した大気モデルでは数値振動を抑制する働きがない2次精度中心差分法を用いていたことが原因である。そのため、Peng et al. (2006)と同様に数値振動を抑制し安定性の高いCIP-CSLRスキーム(Xiao et al. 2002, J. Geophys. Res.)へと移流スキームを変更した。CIP-CSLRスキーム(Constrained Interpolation Profile-Conservative Semi-Lagrangian with Rational function)はセミラグランジュ法と呼ばれる移流スキームの一種であり、変数がセル中心のみでなく、セルの辺中央にも配置されているのが特徴である。そのため、モデルの根幹となる変数配置の変更やそれに伴う計算過程の変更など大幅な修正が必要となった。 2点目は格子特性の問題である。一般的に格子は直交性及び一様性が高いものが好ましい。Peng et al. (2006)で取り扱っていたYin-Yang格子は理想的な格子である一方、Takemura et al. (2015)では、格子は地形に適合させるために形状を変化させるので直交性、一様性がやや低くなる。そこで、格子の非直行性、非一様性による保存性補間への影響を検証するために移流実験を行った。その結果、保存性補間法を用いた場合、格子の特性に依らず保存性は保証されるが格子の直交性、一様性が顕著に低い場合には格子境界において著しく誤差が増加することが判明した。そのため、誤差を低減させるために一部修正を加える必要が生まれた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は開発したモデルに雲微物理過程を導入し、地形性降水の数値実験を行う予定である。 導入する雲微物理過程はKesslerスキームを予定している。Kesslerスキームは液体の水のみの降水を表現するスキームであり、固体も含んだ雲微物理過程に比べて導入が容易である。一方で、雪やあられなどの固体を表現できないが対象としている地形性降水では暖かい雨と呼ばれる液体の水が支配的な降水のため、問題はないと考えている。はじめに、雲微物理過程の検証として、比較として広く用いられている線状降水帯の理想実験を行い、既存のモデルとの比較を行う。 検証実験により雲微物理過程が適切に導入できていることを確認したのちに、2次元の地形性降水実験を行う。はじめは、既存の研究で対象とされているような緩やかで幅の広い山にて数値実験を行う。その後、幅の狭い急峻な山岳にて地形性降水の数値実験を行い、その特徴を調査する。
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