2018 Fiscal Year Annual Research Report
フランス近世における歴史批評と無神論社会―ベールを中心に―
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17J00954
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
谷川 雅子 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | ピエール・ベール / アントワーヌ・アルノー / ピエール・ニコル / 歴史的懐疑主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度も昨年に引き続き、ベールの中期作品『歴史批評辞典』(1696)と、アルノーとニコル著『ポール・ロワイヤル論理学』(初版1662)との、歴史批評について相関を探った。本年度は、テクストの生成状況に着目することで論争的文脈で、ベールの歴史批評を理解することに努めた。例えば、同時代に、イギリスで無実のカトリック教徒が処刑された「法王教徒陰謀事件」(1678-81)の真偽を断ずるアルノーに、ベールは歴史的懐疑主義を標榜し、判断を留保する。だが、この態度はプロテスタントとしての戦略であることが、ニコルの対プロテスタント論争書で暴かれる。論争や各人の置かれた立場といった具体的文脈にテクストを位置付け、ベールの歴史への懐疑的な態度が、『辞典』で積極的に虚偽を退け史実へ至る姿勢を否定したものではない点を指摘し、彼の作品を理解する土台を整えた。こうして、スコラ学や当時の歴史事件への応答としてベールとポール・ロワイヤルを読み、ベールの歴史批評を懐疑主義の流れだけでなく、過去と同時代のテクストの交錯から理解した。 この成果を、リヨン高等師範学校の近代表象・思想史研究所主催の国際会議「懐疑的人間学と近代」で発表する運びとなった(2019年3月)。欧米では懐疑思想家とされるベールと親和性の高いテーマのこの会議では、ベール研究の観点からも良質な質疑応答が出来た。ベールの歴史的懐疑主義を示すテクストと、ポール・ロワイヤル、スコラ学との関係を問い直した申請者の発表は、懐疑主義、合理主義のいずれの枠にも収まらない豊かなベール像を、具体的なテクストの参照関係から示した点を評価して頂けた。パガニーニ教授やP.スミス教授(ブラジル、サンパウロ州大学)らとの質疑応答から、ベールの歴史批評をヒュームとの関連でも捉える新たな視座や、初期と中期のベールの歴史認識の相違についての見通しが出てきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究を、国際会議で発表できる程度に具体化できており、1年目から2年目の成果が結実したと思える。研究内容としても、当初予定していたアルノーとベールの、「法王教徒陰謀事件」を巡る議論だけでなく、ベールに対するニコルの批判を取り入れることができた。そのため、ベールの歴史的懐疑主義を、思想史上の流れの中に位置付けるだけでなく、実際の事件を背景に、アルノーやジュリューといった同時代の議論に呼応して生まれた、具体的なものとして描くことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
リヨンの国際会議での本研究の成果の発表を聞き興味を持って下さった、将来に繋がる人との関係が出来た。学術誌『古典期の自由思想と哲学』(2015年までマッケンナ名誉教授が主導)のN.ジャングー編集長に、彼女が主催する国際会議「自由思想と歴史」(2019年11月にリヨンで開催、会議の論集はパリのクラシック・ガルニエ社より刊行予定)での、ベールをテーマとする発表のご依頼をいただけた。「ベールにおける歴史」と題する発表を行う予定で、ベールの初期作品『マンブール氏への一般批判』(1682)における、歴史的事件への扱いを論じる。具体的には、「法王教徒陰謀事件」だけでなく、同時代に徴収権を巡って、王権と対立したジャンセニストの問題を通じ、ベールとアルノーが服従の問題で接近することを示す。
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Research Products
(4 results)