2017 Fiscal Year Annual Research Report
液体窒素中でのレーザーアブレーションを用いた窒化による炭化ケイ素表面の不働態化
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17J01094
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
嶋林 正晴 北海道大学, 大学院工学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | SiC / レーザーアブレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
SiCトランジスターの高オン抵抗の原因は、チャネル領域における欠陥であると考えられている。したがって、SiC表面を不働態化し、欠陥のないチャネル領域を形成する技術の開発は重要である。本研究では液体窒素中でのレーザーアブレーションによって4H-SiC表面に不働態化した窒化膜を形成するプロセスを試みた。 真空槽および液槽からなる円筒容器を用いた。真空槽は外部との間の熱絶縁の役割を果たす。液槽に液体窒素を満たし、SiCターゲット面に垂直な方向から石英窓を介して波長266nmのNd:YAGレーザーパルスを集光照射した。処理後のサンプルを一端大気に取り出し、SEMおよびXPSにより分析した。 SEMの結果より、サンプル表面において、レーザー照射による照射痕が確認できた。照射痕表面にはひび割れが確認でき、レーザーアブレーションによる相変化および急冷によって形成されたことが示唆される。また、XPSの結果より、窒素の含有割合が照射中心にピークを持つ分布となった。照射中心での窒化層の形成はレーザー生成プラズマおよびアブレーション発生時における高温高圧場に起因することが示唆される。また、特筆すべき点として、照射痕が確認できない領域においても窒化層が形成された。この領域では照射痕が確認できないため、アブレーションが発生していないと考えられる。したがって、アブレーションの閾値を下回るレーザーの照射、および照射中心からの熱伝導によって、SiC表面が加熱されることで、試料の表面形態を損ねること無く窒化層を形成できることが示唆された。このことを踏まえて、サンプル表面の温度分布の時間変化を熱拡散方程式の数値解析によって求めた。結果として、照射痕が形成された領域においてSiCが気化する温度まで加熱され、照射中心からのエネルギーの拡散により、周辺領域が相変化する温度まで加熱されることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初より利用を検討していた装置が、事故により故障した。予算の関係上、今年度における修理が困難であるため、真空槽、飽和槽、および加圧槽からなる多槽の円筒容器から真空槽、液相からなる円筒容器に装置を変更した。本研究における最大のテーマは液体窒素中でのレーザーアブレーションを用いた窒化物半導体生成プロセスを試みることである。このプロセスによる窒化処理に期待する効果としては、具体的には、1)アブレーション時に形成される気相中における高密度の窒素ラジカルを含むプラズマの生成、2)窒化層下部の4H-SiCの結晶性を損なわない方法での窒化層の結晶性の改善、3)酸素の介在しない方法での窒化処理の実現である。これらの効果は、変更後の装置において十分に検討可能であると判断した。したがって、本年度はキャビテーション気泡が生成されない条件下での4H-SiC窒化処理プロセスに焦点を絞って研究を行った。結果として、液体窒素中でのレーザーアブレーションを用いた4H-SiCの窒化処理において、サンプル表面の急激な温度変化による相変化が寄与することを明らかにした。このことは、照射するレーザーのパラメータを制御することによって、サンプルの表面形態、および、窒化層の厚さや元素組成を制御できることを示唆しており、極めて重要な結果である。この結果に関して、現在論文を準備中である。しかし、キャビテーション気泡の4H-SiC窒化処理への寄与を検討できていない点において、現在までの研究の進捗状況はやや遅れていると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者は本研究の研究計画において、「1年目:液体窒素中でのレーザーアブレーションを用いた4H-SiC表面の窒化処理」、および「2年目:液体窒素中のキャビテーション気泡のダイナミクスの解析」の2段階に分けて立案した。しかし、現在までにキャビテーション気泡が生成される条件での実験に着手できていないため、研究進捗はやや遅れていると言える。しかし、この研究進捗の遅れの原因は「現在までの進捗状況」で述べた通り、実験装置の故障であり30年度での修理を予定している。本年度におけるキャビテーション気泡の生成されない条件での実験結果を参考にすることで、本年度と比較して遥かに少ない条件で、かつ速やかに研究を遂行できると想定する。これにより遅れを挽回し、30年度は当初の予定通りに液体窒素中でキャビテーション気泡のダイナミクスの解析に着手したい。
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