2017 Fiscal Year Annual Research Report
"Style" in the Thought of Henri Lefebvre : Focusing on the Critique of Technocracy
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17J01101
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山本 千寛 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | アンリ・ルフェーヴル / サイバネティクス / スタイル / ニーチェ / 管理社会論 / 個人主義 / 欲望 / 欲求 |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者は、フランスの哲学者・社会学者アンリ・ルフェーヴル(1901-1991)が1960年代に提起した「サイバネティクス人」概念を出発点として、ルフェーヴル思想の社会思想史的な位置づけとその意義を再検討するために本研究を遂行している。この概念は自らのスタイルを失って画一的、効率的かつ自己抑制的にふる舞う人間を示している。本年度の研究では、この「サイバネティクス人」概念に関連した3つのテーマについて学会報告2件と2編の論文執筆を行なった。 第1に「サイバネティクス人」概念の土台にもなっていると考えられる「人間の砂〔sable humain〕」概念に着目しその含意を検証した。この成果は論文「「人間の砂」にみる個人主義的な同質化――アンリ・ルフェーヴルのニーチェ受容の一側面」としてすでに紀要『年報 地域文化研究』(第21号)において発表した。 第2に、都市空間論における「参加」「創造」の強調と裏腹の関係にある「受動性」の問題がサイバネティクスの語の含意として読み取れることを明らかにし、この成果を第42回社会思想史学会大会(2017年11月)において発表した。 第3に、「サイバネティクス人」は「欲望を持たず、ただ欲求だけを持つ」という記述に着目して欲望と欲求の区別を年代別に考察し、この成果を日仏哲学会2017年秋季大会(2017年9月)において発表した。さらにこの「欲望」の議論を都市計画分野におけるより実践的な取組みと関連づけながら、この成果を論文“Reconsidering ‘Desire’ and ‘Style’: A Lefebvrian Approach to Democratic Orientation in Planning”にまとめた。当該論文は論文誌Urban Planning(Volume 3, Issue 3/2018年6月刊行予定)において掲載が決定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「サイバネティクス人」概念を中心とした上記3つの主題に関して、論文2編、学会報告2件の成果を発表することができた。とくに英語での成果論文発表(刊行予定)にまで研究を進めることができた点は「当初の計画以上」だといえる。 また研究経費の使用に関しても、主要な一次文献の大部分とノート型PCを揃え、研究基盤を整えるということに成功している。 上記の成果によって、今年度の研究は都市空間論には限定されない独自の視点からルフェーヴル思想を読み直すための足場をある程度まで固めることに成功しているだろう。次年度以降には、この足場をさらに確実にするための地道な文献研究を続けつつ、ルフェーヴル思想の内的な連関や隔絶のみならず、同時代の他の思想家との関係などを含む、より広い思想史的な文脈に着目した研究を遂行していくことが期待できる。 以上をふまえて、「(1)当初の計画以上に進展している」を自己評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、ルフェーヴルの科学観と方法論に焦点を当てて、思想史的な文脈における科学への評価とかれの方法論の一部分としての「未来」のとらえ方に着目した研究を行なう。とくに科学と弁証法の関係については、1945-1946年に執筆されたものの検閲により刊行がかなわなかった『科学の方法論』や、『形式論理学と弁証法論理学』の第3版への序説を中心に詳細な読解作業を行なう。またテクノサイエンスへの視座については『ひとつの立場』の記述にも立ち返りつつ、主に『日常生活批判Ⅲ』における「情報」あるいは「情報技術」への言及を丁寧に追う作業を予定している。 当初の予定では、コロンビア大学バトラー図書館での海外文献調査を予定していたが、海外研究発表のための渡航費用に研究資金を使用するほうが研究上の意義がより大きいと判断し、予定を変更する。また初年度にテクノクラシーの問題について「サイバネティクス人」概念を中心にすでに考察を行なったため、2年目は当初の予定にあった「官僚制」の問題に代えて、3年目に行なう予定であったルフェーヴルの「空間」概念に関する考察を前倒しして行なう予定である。
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