2017 Fiscal Year Annual Research Report
畿内大型古墳群出土埴輪の悉皆的分析にもとづく古墳時代中期政権構造の解明
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17J01126
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
木村 理 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 古墳時代中期 / 円筒埴輪 / 工人集団 / 畿内大型古墳群 / 埴輪生産 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、大阪府藤井寺市、羽曳野市、堺市をはじめとした各地教育委員会所蔵の古市・百舌鳥古墳群出土埴輪の悉皆的な調査にもとづく①1古墳内で採られる埴輪生産体制の実態解明、②大型古墳群の通時期的な埴輪生産の展開解明、を主眼に据えて研究を実施した。 埴輪生産およびその供給関係を復元するために、1古墳に供給された埴輪の悉皆的な調査を基本とした分析方法を採った。特に、生産体制解明を可能にする工人集団の復元にあたっては、「集団」の最小単位である工人「個人」を識別する作業を基礎分析として行った。その際、埴輪同士の形状、製作技法、胎土、色調などの類似性、相違性を検討するのみならず、個々の工人が有す手法上の癖や、彼らが用いた工具の同定など、ミクロな分析も実施し、分析の蓋然性を担保させた。 また、普通円筒埴輪と朝顔形埴輪、形象埴輪などといった異なる器種間でみられる分業・協業のあり方にも注意を払い、資料を観察した。そして、円筒埴輪と形象埴輪の間で確認できる工具痕跡の一致・不一致や、両者で同様の製作技法が採られる箇所で確認される手法の類似性をもって分業・協業の実態解明に取り組んだ。以上の分析が本年度の研究①に該当するものである。たほう、このような1古墳内の埴輪生産体制の実態を明らかにした上で、ほかの古墳出土埴輪との比較検討を行い、それらを通時期的に分析した。本年度の研究②である。 さて、①の分析の結果、円筒埴輪の多様性が複雑な要因のもとで発現していることを明らかにし、工人集団が重層的な構造を有していることを指摘した。また、②の分析については、大型古墳と小型古墳で同一の工人集団が動員される事例があることを示し、両者の階層の差を超えた密接な結びつきを明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の当初の研究計画は、古市・百舌鳥古墳群出土埴輪を中心として悉皆的な調査を行い、埴輪の製作技術、胎土、使用工具の分析を通じて、製作者集団を復元することであった。この研究計画に鑑みると、本年度の研究はおおむね予定通りであったと言える。また、古市・百舌鳥古墳群のみならず、奈良県馬見古墳群出土埴輪や、畿内大型古墳群築造停止後の奈良県下の埴輪の資料調査を行い、工人集団の動向や技術の波及過程の解明にかかる検討を行うなど、畿内大型古墳群出土埴輪の総合的な理解にむけて考察を深めることができた。 一方で、畿内大型古墳群の埴輪生産の特質を探る上では、周辺地域の様相を把握する必要があるが、それについては今年度は十分に理解を深められず、新たな課題として浮上した。
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Strategy for Future Research Activity |
古市・百舌鳥古墳群の埴輪生産・供給の様相を明らかにした今年度の研究を踏まえて、馬見古墳群および佐紀古墳群のあり方を分析する必要がある。研究の方針としては、出土埴輪の悉皆的な調査を行った上で、製作技法、使用工具の検討を通じ、各古墳群の古墳群内部での埴輪生産・供給状況の復元を試みる予定である。特に、両古墳群では古墳ごとに異なる形態の円筒埴輪が出土しているが、それらが異なる工人集団によって製作されたものであるか、同一の集団によって作り分けられたものであるかを明らかにすることは来年度の研究にとって欠くことのできない着眼点である。 また、周辺地域の事例として播磨地域を対象としたケーススタディを行い、畿内大型古墳群の埴輪生産の特質を明らかにする。
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