2018 Fiscal Year Annual Research Report
畿内大型古墳群出土埴輪の悉皆的分析にもとづく古墳時代中期政権構造の解明
Project/Area Number |
17J01126
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
木村 理 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 埴輪 / 古墳時代中期 / 畿内大型古墳群 / 古市古墳群 / 百舌鳥古墳群 / 馬見古墳群 |
Outline of Annual Research Achievements |
古市古墳群の分析にかんしては、埴輪をいくつかの系統に細分した上でそれぞれの変遷を確認し、さらにはそれらを総合した編年案を構築した。また、古墳時代中期前葉から後葉にかけて200mを越える大型前方後円墳と、30m前後の小型古墳の間で同一の工人集団が融通されることを根拠として、階層を隔てた両者の直接的な結びつきの実態を明らかにし、掌握が比較的容易な低階層の勢力から大型前方後円墳造営主体を中心とした取り込みが行われていた可能性を指摘した。なお、この成果は『考古学研究』第65号第1巻(査読あり)にて公表した。百舌鳥古墳群についても、昨年度に引き続き悉皆的な資料調査を実施し、大型前方後円墳を中心とした埴輪生産が行われるようになる過程を究明した。この一連の調査・研究により、古墳時代中期において最も有力な古墳が築かれた地域の埴輪生産体制の状況が明らかになったといえる。これにかんしては『古代学研究』220号(査読あり)で成果公表を行った。 さらに、今年度は古墳時代中期においてはこれまで十分に着目されてこなかった朝顔形埴輪の分析を実施し、系統の違いが顕在化する時期と、複数の系統が混在する時期がある点に言及した。こうしたあり方は埴輪工人集団や生産体制が、中期を通じて一様であったというよりもむしろ、変化に富んでいた可能性を示唆するものといえ、それを支える古墳造営主体や埴輪を必要とした社会の「うねり」を解明する上で重要な成果となった。これについても、『埴輪論叢』第8号に投稿した。 また、今年度は畿内大型古墳群の分析として、馬見古墳群出土埴輪の悉皆調査に基づく生産体制復元を行った。その結果、古墳群の時期や立地の違いに応じて生産体制が異なっていた可能性が推測できるようになり、王権中枢の構成勢力としての馬見古墳群の性格や、古墳時代中期の埴輪生産の特質を復元する上での重要な知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初予定であった百舌鳥、古市古墳群の埴輪生産に加えて馬見古墳群の出土埴輪の悉皆的な調査を実施し、その状況を明らかにすることができた。そして、朝顔形埴輪や形象埴輪など複数の器種からも検討を行って古墳時代社会の特質の大枠をつかむことができた。また、兵庫県域や淀川流域など王権周辺地域の埴輪生産の動向も視野に入れて各地への資料調査を実施し、王権中枢部の埴輪生産の特質を比較検討により究明できたことも、当初の計画より研究が進展したことを物語る。さらに当初の研究計画にはなかったものの、中国への踏査を行い、古墳の外表施設が持つ特殊性を東アジアというマクロな視点から明らかにすることができたことも重要である。 さらに、査読論文2本を含む計6本の雑誌論文投稿、および4件の学会発表を経て研究のアウトプットを積極的に実施することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度にあたる次年度は、これまでの研究を総括するとともに、埴輪を越えた古墳時代研究の中で自らの研究成果を意義づける予定である。 そのためには、畿内大型古墳群における埴輪生産・供給体制と首長権力とのかかわり、そして周辺地域の埴輪生産・供給体制と首長権力のかかわり方を時期ごとに整理した上で、当該期の埴輪のあり方を体系化する必要がある。また、副葬品や墳丘にかかわる最新の研究成果についても理解を深め、古墳時代の中で外表施設である埴輪がいかに取り扱われたのか、またそのような時期とは古代国家の形成期にあっていかなる特質をもっていたのかという点を浮き彫りにしていくことを考えていく。以上の研究を通じて得られた成果については、口頭発表、論文投稿などの形で積極的に公表する。
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