2017 Fiscal Year Annual Research Report
「性の芸術」の転換期としての1970年代日活ロマンポルノ研究
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17J01159
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
鳩飼 未緒 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 日活 / ロマンポルノ / 戦後日本映画 / 撮影所システム |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、日活ロマンポルノ(以下ロマンポルノと略記)のうち、1970年代に公開された作品群を研究の対象としている。ロマンポルノは、「性の芸術」と呼べるような多彩かつ先鋭的な映画群によって日本映画における撮影所システムからポスト撮影所時代への転換期を支えた、映画史上きわめて重要な事象である。とりわけ1970年代にはこの転換期を特徴付けるような作品が集中しており、本研究は複数の切り口から当該時期のロマンポルノの実態を明らかにすることを目指している。 本年度は①ロマンポルノ成立の経緯、②ロマンポルノにおけるスター女優、③ロマンポルノにおける「作家」、④日活アクションからロマンポルノの系譜という4点について考察を進め、研究の大枠を定めることができた。具体的な考察の内容は以下のとおりである。①ロマンポルノの第一回興行作品『団地妻 昼下りの情事』を取り上げ、本作をそれ以降のロマンポルノの作品群と隔てる特異性について論じた。②「SMの女王」と称されたロマンポルノのスター女優である谷ナオミに着目し、主演作のうち最初の二本『花と蛇』と『生贄夫人』の分析を通じて谷のスターとしてのイメージが確立されていく過程を辿ることを試みた。③ロマンポルノを代表する「作家」として高く評価されている監督神代辰巳について、その作品群は、男性にとって理想的な女性が、劇中の男性=男性監督=男性観客に与するために存在するような「男の映画」である、という仮説を証明するための分析を進めた。④1971年以前の日活アクションの時代からロマンポルノへの移行に着目し、監督長谷部安春の作品群の検討によって、ロマンポルノへの移行を経ても作品にはそれ以前の日活の特色が引き継がれたことを説き明かした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の4点について考察を進められたことで、申請時に作成した研究計画のうちほぼ半分をカバーできたためである。そのうち、②については日本映像学会テクスト分析研究会において「「SMの女王」の誕生――『花と蛇』と『生贄夫人』による谷ナオミのスター・イメージの構築」という題目で口頭発表を行った。また、③に関しては神代が1970年代最後に撮ったロマンポルノ作品である『赫い髪の女』(1979年)について論文を執筆し、「「男の映画」としての『赫い髪の女』――神代辰巳論に向けて」として『演劇映像』58号に掲載された。さらに④について、世界各国の日本映画研究者が参加する研究会であるKinema Clubにて、“Studying the Japanese Studio System: From Nikkatsu New Action to Nikkatsu Roman Porno”という題目で口頭発表を行った。このように、研究成果の発表も順調に重ねている。論文は1本のみであるが、Kinema Clubでの発表は英語で行っており、この業績は特筆すべきものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、研究計画の残りの部分について考察を進め、前年度よりも多く論文投稿や口頭発表を行っていく所存である。具体的には、上述4点のうち②の谷ナオミについての英語論文を国際的な査読付雑誌であるJournal of Japanese and Korean Cinemaに投稿する。また、③については『赫い髪の女』だけでなく1970年代ロマンポルノにおける神代のフィルモグラフィー全体を検討し、その内容を論文として投稿する。また現在、神代の他に、『天使のはらわた 赤い教室』における監督の曽根中生と原作・脚本を担当した石井隆の「作家」としての相関性を考える試みを進めている。この成果をもとに5月末に開催される日本映像学会44回大会において口頭発表を行う予定である(申込受理済み)。また、5つ目の切り口として、「◯◯もの」と呼ばれるような人気企画のサイクルに当てはまる作品の分析も行い、論文として発表したいと考えている。 本課題は撮影所からポスト撮影所への転換期の移行過程をロマンポルノの個々の作品に則して説き明かすことを目標としているが、最終年度である30年度は、これまで十分に行なっていない歴史的側面に関する研究内容を上記の成果に補足したうえで、完成を目指す。
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Remarks |
鳩飼未緒、「われ発見せり」、『ユリイカ』2017年10月号、246頁。
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Research Products
(3 results)