2017 Fiscal Year Annual Research Report
「戦争体験」のジェンダー学:第一次世界大戦後アメリカの女性退役軍人組織の事例から
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17J01266
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
望戸 愛果 立教大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | アメリカ合衆国 / 戦争体験 / 歴史社会学 / ジェンダー / 第一次世界大戦 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、第一次世界大戦後アメリカにおける女性の退役軍人組織の組織化過程を、同時代における男性退役軍人組織の設立との関連の中で検証した。具体的には、主に以下の3つの作業を行った。(1)第一次世界大戦後の女性従軍体験者をめぐる研究がアメリカにおいて新たに出版されてきており、これを総覧・整理した。なお、これと関連する同時代のアメリカにおける男性退役軍人についての研究も入手し、検討した。(2)女性の退役軍人組織に関する史料調査をアメリカのワシントンD Cおよびニューヨークにて行い、同組織の発行物を収集・分析した。(3)国立墓地や博物館や国立図書館で戦争記念事業の調査を実施した。具体的には、アーリントン国立墓地、アメリカ議会図書館、国立アメリカ歴史博物館等にて調査を行い、また女性軍人記念館にて関連展示の調査も行った。 現段階における研究成果の概要は、以下の通りである。あくまで男性の戦争体験者を中心に据え、女性を周縁化していく形で堅固な組織化を進めていったのが、第一次世界大戦後アメリカの男性退役軍人組織(アメリカ在郷軍人会)であった。在郷軍人会内部にも女性従軍体験者の地位を改善しようとする女性たちの行動や、戦時中の貢献について正当な評価を得ようとする女性たちの主張があったことが確認されたが、こうした行動や主張は男性中心の組織体制の大きな転換には結びつかなかった。一方、同時代に、これとは方法を異にする組織創設および組織拡大が女性従軍体験者たち自身によって行われていたことが、史料調査によって徐々に明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記「研究実績の概要」欄に記入した内容に加え、平成29年度前半には立教大学アメリカ研究所の研究会や第8回戦争社会学研究会大会(琉球大学)に参加し、アメリカ研究および戦争研究をめぐる最新の歴史社会学的知見を得ることにも務めた。戦争社会学研究会大会への参加は、後述する12月の同研究会の関東例会での報告につながった。 平成29年度後半は主に研究発表を行い、特に本研究の分析枠組みである「「戦争体験」のジェンダー化された序列」の精緻化を図った。平成29年11月の第90回日本社会学会大会(東京大学・本郷キャンパス)にて、「「戦争体験」のジェンダー化された序列――第一次世界大戦後アメリカ合衆国の事例から」と題した研究報告を行い、戦後社会において根強く効力を持つ「女性の従軍体験」を周縁化する序列の存続過程を解き明かす、より多層的かつ動態的なジェンダー分析の重要性を明らかにした。また、平成29年12月に戦争社会学研究会・関東例会(埼玉大学)にて「「戦争体験」のジェンダー学の射程」と題した報告を行い、第一次世界大戦後の「戦争体験」をジェンダー視角から批判的に再検討する必要性を指摘した。いずれの報告においても、今後の研究の発展のための有意義な指摘を得ることができた。 以上をふまえ、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、平成29年度の研究成果に基づいて、第一次世界大戦後アメリカにおける女性退役軍人組織の設立についての学術論文を執筆し、投稿する予定である。さらに、本年度に引き続き、女性退役軍人組織のあり方の詳細を明らかにするための史料調査をアメリカにて実施する。加えて、学会および研究会における研究成果発表も積極的に行い、さらなる研究発展につなげていきたい。
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