2018 Fiscal Year Annual Research Report
「戦争体験」のジェンダー学:第一次世界大戦後アメリカの女性退役軍人組織の事例から
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17J01266
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
望戸 愛果 立教大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | アメリカ合衆国 / 戦争体験 / 歴史社会学 / ジェンダー / 第一次世界大戦 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、第一次世界大戦後アメリカにおける女性従軍体験者についての史料収集を行った。本年度は第一次世界大戦休戦一〇〇周年にあたる年であった。アメリカでの調査は休戦一〇〇周年記念展「第一次世界大戦アメリカ」(シアトル)が開催中であったこともあり、戦争体験とジェンダーをめぐる最新の歴史社会学的知見を得る貴重な機会となった。 史料の整理・分析から得られた知見をもとに執筆した論文を、戦争社会学研究会の査読付き学会誌『戦争社会学研究』へ投稿した。論文のタイトルは「退役軍人としての女性――第一次世界大戦後アメリカにおける女性海外従軍連盟の組織化過程」であり、アメリカ史上「初めての女性退役軍人組織」と呼ばれる女性海外従軍連盟に焦点を当て、同会の組織化過程を「退役軍人としての女性」という新たな視座から分析したものである。同論文は編集委員会より掲載決定の通知を受けることができた。現在印刷中であり、『戦争社会学研究』第3巻に収録され、令和元年6月に出版社より刊行予定である。 現段階における研究成果の概要は、以下の通りである。 女性海外従軍連盟はアメリカの先行研究においては「市民としての女性」という視点から論じられ、組織基盤となる共通の「戦争体験」の不在が想定されてきた。研究代表者はこれに異議を唱え、同会が海外従軍女性の多様な「戦争体験」を組織化・象徴化し、男性退役軍人組織に伍する存在として自らを位置づけていく過程を実証的に明らかにした。その上で、「退役軍人としての女性」という視座自体に対しても新たな知見を提供した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は上記「研究実績の概要」欄に記入した内容に加え、学会および研究会での研究報告を積極的に実施し、「「戦争体験」のジェンダー化された序列」という研究代表者独自の分析枠組みをさらに応用・発展させることを目指した。 平成30年10月には、西洋近現代史研究会例会(専修大学)において開催された拙著『「戦争体験」とジェンダー――アメリカ在郷軍人会の第一次世界大戦戦場巡礼を読み解く』の書評会に参加し、コメントに対するリプライを行った。この書評会では活発な議論が行われ、ヨーロッパ史やアメリカ史などを専門とする研究者から多くのコメントを得ることができた。 平成30年11月には、日本国際政治学会研究大会(大宮ソニックシティ)のジェンダー分科会「戦後を生きる人々とジェンダー」にて、「第一次世界大戦後アメリカにおける「戦争体験」のジェンダー化された序列」と題した研究報告を行った。この分科会では討論者から、そして分科会に参加した学会員から、研究代表者の研究のさらなる発展のための有意義な指摘を得ることができた。 平成31年1月には、移動・開発・ジェンダー研究会(お茶の水女子大学)において「「戦争体験」とジェンダー――アメリカ在郷軍人会の第一次世界大戦戦場巡礼」と題した研究報告を行った。この研究会ではジェンダー研究を専門とする研究者から、「「戦争体験」のジェンダー化された序列」という研究代表者独自の分析枠組みの応用可能性について貴重なコメントを得ることができた。 以上をふまえ、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、アメリカにおける戦争体験とジェンダーについての新たな学術論文を執筆する予定である。そのために、本年度に引き続き、女性従軍体験者の史料調査をアメリカにて実施する。加えて、これまでに調査・収集した女性従軍体験者組織の史料を整理し、その組織的特徴を析出する。同時代のヨーロッパ諸国の状況、あるいはアメリカにおけるその他の女性運動の状況を視野に入れた上で綿密な分析を行い、研究をさらに進展させていきたい。
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