2018 Fiscal Year Annual Research Report
縦断的アプローチによる学力格差と教育効果に関する実証的研究
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17J01296
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
数実 浩佑 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 学力格差 / 教育の機会均等 / 縦断的研究 / 意欲の階層差 |
Outline of Annual Research Achievements |
採用第2年度では,大きく分けて次の3つの研究課題において進展があった。 1)研究の全体像について:学力格差の生成メカニズムの解明が本研究の主題であるが,「累積する有利/不利」という理論的枠組みを採用することによって,研究課題の明確化を行った。 2)量的研究について:「学業成績の低下はアスピレーションにどのような変化をもたらすか」という問いを検討した。利用するデータは,公立の小学校(小5・小6)と中学校(中2・中3)の2時点パネルデータである。分析手法には,変化の方向と非変化時の状態を区別した一階差分モデルを用いた。分析の結果,小学校段階では,出身階層にかかわらず,成績が低下しても学習時間は減少しない一方で,中学校段階では,階層下位においてのみ,成績が低下するとそれにともなって学習時間も減少することが明らかとなった。この結果から,学力格差の生成メカニズムについて考察を行った。以上の分析結果は論文にまとめ,数理社会学会の機関誌『理論と方法』に投稿している。 3)質的研究について:公立中学校のフィールドワーク調査によって得られたデータを分析し,日本教育社会学会で学会発表を行った。その報告では,「どのようにして生徒を授業に参加させることができるか」という実践的に重要な問いについて検討した。フィールドワークの結果から,授業参加のハードルを下げる工夫と集団づくりに基づく班学習の2点が,授業への参加を促し,生徒の学習態度を変容させるための取り組みとして浮かび上がってきた。またその両実践を,「補償(compensation)」と「保障(security)」という理論的概念を用いることによって整理を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の進展のひとつは,学力格差の維持・拡大メカニズムについて検討するために,社会階層研究において注目されている「補償的有利(Compensatory Advantage)」という概念に着目し,学力と学習時間の関係についてパネルデータ分析を行ったことである。中学校段階では,階層下位においてのみ,成績が低下するとそれにともなって学習時間も減少することが明らかとなったが,この結果は,意欲の階層差および学力格差のメカニズムの解明に資する興味深い知見となっている。また本調査の一環として行われた公立中学校のフィールドワーク調査によって得られたデータを分析し,「どのようにして生徒を授業に参加させることができるか」という実践的な問いについて分析した。この内容は,日本教育社会学会において研究発表を行った。量的アプローチと質的アプローチの双方において,おおむね順調な進捗がみられる。学力格差の生成メカニズムの解明が本研究の主題であるが,「累積する有利/不利」という理論的枠組みを採用することによって,研究課題の明確化を行った。このことによって,これまでの研究成果を統合し,博士論文を執筆するための大きな鍵概念を見出すことができた点も,今年度の研究成果のひとつである。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は主に,次の3つの課題に取り組んでいく。 1)量的研究:現在数理社会学会の機関紙『理論と方法』に投稿している論文を査読コメントに基づきながら修正し,雑誌への掲載を目指す。また学力格差に関する実態把握を行うため,小・中学校の両段階において,子どもの学力および学習態度がどのように変化するかについて分析する。具体的には,混合軌跡モデルを用いて小・中学生の学力と学習態度の変化のパターンを抽出する。その結果をふまえ,それらの変化のパターンが出身階層や性別にどの程度規定されるかについて分析する。 2)質的研究:「集団づくりの取り組みが『一般校』においていかにして根付くか/根づかないか」という問いを検討する。集団づくりに着目する理由は,既存の「正義としての学校文化」に対して,自立に対して依存の重要性を提起する具体的実践,すなわち,ケアとしての実践として集団づくりが位置づけられると考えるからである。そこでまず同和教育・人権教育が大切にしてきた集団づくりという実践が,ケアの倫理という考え方とどのような関係にあるかを整理する。そのうえで,既存の学校文化が正義の理論に親和的であることを確認したうえで,集団づくりを根づかせようとする管理職の教員のインタビューとその実践の要点をまとめた校内資料を参照しながら,ケアの倫理を学校文化にいかにしてつなげることができるか,そこにはどのような障壁があるのかについて検討していく。 3)博士論文の執筆:これまでの研究成果をまとめ,博士論文を執筆していく。
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Research Products
(2 results)