2017 Fiscal Year Annual Research Report
水素ラジカル還元法による高純度シリコンの高効率作製プロセスの開発
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17J01387
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
岡本 裕二 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 高純度シリコン / 水素ラジカル / シーメンス法 / 大気圧 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は水素ラジカルによりSiHCl3,SiCl4を還元することで、高純度シリコンの製造プロセスの効率化を目指すものである。現行のシーメンス法では、大気圧下、1200℃でSiHCl3を水素還元することでシリコンを作製する。しかし、同時にSiHCl3の熱分解反応も生じてしまい、熱分解反応では副生成物であるSiCl4も生成されるため、これに起因した反応全体の低いシリコン収率が問題であった。この問題を解決するため、水素ラジカルを用いる。水素ラジカルは反応性が高いため、副生成物のSiCl4の発生を抑制できることに加え、SiCl4自身からもSiを得ることができる。 シーメンス法は大気圧下で行われているため、水素ラジカルを組み込むには、大気圧以上で水素ラジカルを発生させ、大気圧のチャンバーに輸送し、SiHCl3やSiCl4と反応させる必要がある。申請時の予備実験で、すでに大気圧での水素ラジカルの作製と検出には成功していた。そのため、本年度は大気圧以上での水素ラジカルの発生と輸送、および実際にSiCl4を還元し、シリコンを作製することに取り組んだ。 まず、大気圧以上(105 kPa)で水素ラジカルの発生を行い、その水素ラジカルを大気圧のチャンバーへと輸送した。すると、ラジカル発生場所から30 cm離れた地点においても、水素ラジカルを検出することに成功した。原料であるSiCl4を反応チャンバーに導入し、水素ラジカルとの混合後、加熱することで還元反応によるシリコンの作製に取り組んだ。水素ラジカルもしくは水素を用いた場合で実験を行った結果、水素ラジカルを用いた場合のみシリコンを得ることができた。この結果から、水素ラジカルによりSiCl4の還元が可能であることを実証することができ、実際にシリコンを作製するところまで達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究実施計画では、年度前半に「大気圧以上での水素ラジカルの発生と輸送」、そして年度後半に「SiCl4を実際に還元することでシリコンを得る」ところまで行う予定であった。大気圧以上での水素ラジカルの発生と輸送は、105 kPa(大気圧以上)の条件で水素ラジカルを発生させ、ラジカル発生場所から30 cm離れた大気圧のチャンバー内で水素ラジカルを検出できたことから、予定通り達成することができた。予備実験で得たデータと合わせることで、0.1気圧から1気圧以上まで圧力を変化させた際の水素ラジカル濃度のデータが得られた。水素ラジカルの生成圧力が増加するにつれ、水素ラジカル濃度は減少していく傾向が見られた。 また、SiCl4の還元によるシリコンの作製について、研究計画では四重極型質量分析計(Q-mass)を用いて、SiCl4の分圧の増減を調べることで反応の有無を確認する予定であった。実際に水素ラジカルにより還元を行うことで、SiCl4が減少したことからシリコンの作製には成功した。しかし、この方法では分圧を測定しているので、作製したシリコンを外部に取り出すことは不可能であった。そこで、反応の検出方法を大きく変更した。反応チャンバーを石英管に置き換え、管状炉で石英管全体を加熱することで、反応により発生したシリコンを石英管の壁に付着させることに成功した。さらに、石英管内部に小さな石英ガラス板を設置し、この石英ガラス板にシリコンを付着することで実験後にシリコンを取り出すことに成功した。このように、目に見える形でシリコンを取り出せるところまで行えたという点から、当初の計画以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、大気圧以上での水素ラジカルの発生、そして実際に水素ラジカルを用いてSiCl4からシリコンを得るところまで達成することができた。現在、水素ラジカルを用いたSiCl4からのSiの作製の実験は、比較的操作がしやすい低圧化(~3 kPa)で行っている。本研究の最終目標は、現行のシーメンス法に組み込むために大気圧下でSiHCl3やSiCl4を水素ラジカルで還元することなので、今後は反応圧力を増加させていき、大気圧下でシリコンを得ることに取り組む。一方、本年度の実験結果から、圧力が増加するにつれ水素ラジカル濃度が減少する傾向も見られているので、圧力を増加しながら生成されるSiの量を確認していき、大気圧よりも最適な圧力条件を見つけるアプローチも行っていく。 また、現在は原料として反応の副生成物であるSiCl4を用いている。しかし今後は、現行の製造法でシリコンを作製する原料として用いられているSiHCl3でも水素ラジカルを用いて還元を行う。水素のみを用いた場合と生成したシリコンの量を比較することで、水素ラジカルのSiHCl3への効果を確かめていく。これらを達成した後には、水素ガスもしくは水素ラジカルを用いた場合で、使用した電力量、得られたシリコンの量の差から、どの程度水素ラジカルによりプロセスが高効率化されうるのかを算出する。そしてこれまでの実験から得られた結果を国際学術論文としてまとめ、投稿することで世界に発信していく。
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Research Products
(3 results)