2018 Fiscal Year Annual Research Report
ジル・ドゥルーズ『シネマ』読解を中心とした映像空間の本性の研究
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17J01509
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
福尾 匠 横浜国立大学, 都市イノベーション学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | ドゥルーズ / ベルクソン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の最大の実績は単著『眼がスクリーンになるとき――ゼロから読むドゥルーズ『シネマ』』(フィルムアート社)だ。本書は本研究課題に掲げた「ドゥルーズ『シネマ』読解」に真正面から取り組んだものである。『シネマ』研究における本書の最大の意義は、その体系性にあるだろう。『シネマ』はドゥルーズ自身が「映画についての本ではない」あるいは「映画史の本ではない」と述べているのにもかかわらず、言及される作品数が膨大であること、論述の枠組みが映画史的なものであることによって、具体的な作品あるいは映画史との関係において読まれてきた。あるいは他方で、ドゥルーズの哲学的「主著」とされる『差異と反復』や『意味の論理学』との偏差において読まれてきた。こうした状況は『シネマ』を「そのままで」読むということがなされてこなかったということを意味するが、拙著で行ったのはまさにそのことだ。『シネマ』は映画に自身の既成の哲学を適用したものではなく、映画によってこそ自身の哲学を刷新しようとしたのだという前提から拙著は出発している。こうした前提の効果を最大限に活かすために、本書では映画作品とドゥルーズの他著作への言及をほとんどまったくおこなわないという方針を選択した。「そのままで」読むというのは拙著の方法であるだけでなく、ドゥルーズのベルクソン読解の方法でもあり、彼の映画の観客としての態度でもあり、拙著はこれらを「リテラリティ(文字どおり性、見たまま性)」という、これまでほとんど注目されてこなかったドゥルーズの用語を概念化することでまとめあげ、考察した。『シネマ』の体系化、ベルクソンとの比較、リテラリティの概念化および実践、これら三つの主題それぞれをなるべく高度な水準でおこなうことと、三つを緊密に連関させることは本書においては同じことであり、それによって一冊の書物としての統一性が形づくられていると私は考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は単著の刊行だけでなく『朝日新聞』『新潮』『美術手帖』などの主要な商業媒体で批評の執筆を行った。本研究課題は狭義の文献研究に収まるものではなく、哲学がいかにして芸術を通して創造的になれるかということを実験するものでもあり、その意味で批評的なテクストを多く書くことができたのは収穫である。 また、『眼がスクリーンになるとき』は2019年度に提出予定の博士論文の大枠をなすものであり、たんに一般読者向けの解説書であるわけではない。このような著作を発表し、ほかの研究者からのフィードバックをもらう機会(書評、トークイベントなど)をたくさん作ることができたのは、研究の進展に大きく寄与するものであった。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度に提出予定の博士論文を執筆することが第一の目標である。この論文は『眼がスクリーンになるとき』を大幅に改稿したものになる。具体的には論文としての内実を備えるために充実した序論と結論を執筆すること、本書においてはあまり言及しなかったドゥルーズの他の著作との関係を明確にし、ドゥルーズ哲学における『シネマ』の位置づけと意義づけをおこなう。 こうした改稿の過程において書かれるものは学会誌論文として投稿する予定だ。たとえば『差異と反復』と『シネマ』を能力論という視座から比較し検討する論文を準備しており、これは2019年9月に表象文化論学会に投稿する予定である。
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Research Products
(1 results)