2017 Fiscal Year Annual Research Report
消費者生成メディア上での評判共有から創発する集合知メカニズムの解明
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17J01559
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
豊川 航 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 集合知 / 強化学習 / 口コミ / オンライン実権 / 集団行動 / マルチエージェント / 社会的学習 / 階層ベイズモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,インターネット上で共有される「口コミ評価」が,個々人の意思決定へどのような影響を与え,その結果として集団全体の動態がどのように変化するのかを解明することである。「口コミ共有」の仕組みは,ミツバチやアリなどの社会性昆虫システムをアナロジーとし,集合知を生み出す装置としてしばしば語られる。しかし,口コミ共有がいつ・どのように集合知を生むかに関する定量的な研究は,ほとんどなされていない。従来の研究では,集合知と集合愚とは常に隣り合わせであることが示唆されてきた。つまり,共有される情報と,それを利用する人間の行動とが適切に噛み合わなければ,集合知効果は期待されないのである。インターネットを利用する人間の集合行動を理解する上で,またより機能性の高いwebサービスを構築する応用面からも,口コミ共有システムと意思決定との関係の解明には意義がある。
本年度は、セント・アンドリュース大学 Kevin Laland 教授(海外派遣受入研究者)とエジンバラ大学 Andrew Whalen 博士との共同で研究を進め、主に研究計画①「口コミ共有システムが集合知に与える影響を調べるオンライン実験」を中心に行った。計算論的モデルと階層ベイズ統計手法による行動機序の推定精度を綿密な数値実験によって検証したことは、これからの実験研究の再現可能性を担保する上でも意義深い貢献であった。
また、国内学会(日本心理学会)および国際学会(国際文化進化学会)での発表、および国内外のラボ(総研大、エクセター大学(英国)、マックスプランク研究所(ドイツ))へ出向いて積極的に成果を発表し、人間行動進化学のトッププレイヤーから数多くのフィードバックを得た。さらに、国際的な共同研究でも成果を挙げた(Muthukrishna et al. 2017)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,①口コミ共有システムの違いによって人間の意思決定パフォーマンスがどう変化するかの実験研究,②実際のネット上で好評/悪評がどのように共有されているかの調査研究,および③好評や悪評(あるいは両者の混合)共有システムが,動物の集団中にそれぞれどのような条件下で進化および維持可能かを予測する理論の構築,という三部から構成される。
本年度は、セント・アンドリュース大学 Kevin Laland 教授(海外派遣受入研究者)とエジンバラ大学 Andrew Whalen 博士との共同で研究を進め、主に研究計画①「口コミ共有システムが集合知に与える影響を調べるオンライン実験」を中心に行った。以下に、本年度の研究遂行結果を述べる。
本研究テーマの性質上、実験で得られる行動データはヒトの学習と意思決定との相互作用が生み出す時系列となる。データを裏打ちする計算論的メカニズムを推定するためには、従来的な頻度統計的検定では太刀打ちできない。そこで、神経科学分野で近年盛んに用いられている強化学習ベースのモデリングを拡張し、社会的相互作用を組込んだ計算論モデルを構築した。実際の実験データを得る前に、シミュレーションで生成したダミーデータを用いた信頼性の試験を行なった。本年度の前半は主に、このシミュレーションによる計算論的手法の精度向上に注力した。現時点での結果は、十分な被験者数を確保したという条件の下では、従来の単純な最尤推定法と比べてかなり精度よく「真のパラメータ値」を推定できるまでに至った。これは、インターネット実験での大きなサンプルサイズを考えれば、十分に実用可能な手法であることを意味している。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に構築した計算論的モデルをベースにオンライン実験でのデータを解析し、「口コミ」がいつどのように学習と意思決定へ貢献するのかを定量的に明らかにする。その知見に基づき、実際の社会でどのように口コミ共有がなされているのかに関する予測を立て、実際のwebサービス上でのパターンをクローリングによって調査する。Webクローリング調査を行うための自動検索プログラムを作成し、実際のオンライン上での口コミ共有パターンのデータ収集にとりかかる。データ収集に先立ち、どの国/地域の、どの口コミサイトからデータを収集するかを定める。映画や音楽などの文化的財と、レストランや家電製品などの財とで、オンラインマーケットでの消費者の行動は異なる可能性がある。「価値の外部性」が大きい文化的財の方が、その他の財に比べて、消費者が他者行動からの影響を受け易いことが知られている(Salganik et al. 2006)。したがって、調査対象としては文化的財とそれ以外の財とを両方含め、比較する予定である。
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Research Products
(5 results)