2018 Fiscal Year Annual Research Report
大型液体シンチレータ検出器でのマヨラナニュートリノ発見に向けた研究開発
Project/Area Number |
17J01788
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
尾﨑 秀義 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | ニュートリノレス二重ベータ崩壊 / 液体シンチレータ検出器 / 極低バックグラウンド |
Outline of Annual Research Achievements |
ニュートリノは、未だディラック粒子かマヨラナ粒子かわかっていない。ニュートリノがマヨラナ粒子であれば、宇宙に物質だけが存在する理由やニュートリノの軽い質量を説明できる理論の鍵となる。ニュートリノのマヨラナ性は、ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊を観測することで検証することができる。本研究は、大型液体シンチレータ検出器KamLANDを用いて、ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊探索を行うためのものである。 ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊は、136キセノン原子核においての半減期が約10の26乗年以上という極めて稀な事象である。その発見には、観測の妨げとなる背景事象をいかに少なくするかが重要となる。 KamLAND-Zenは大型液体シンチレータ検出器KamLANDに、放射性不純物の極端に少ない容器であるミニバルーンをインストールしてその中に二重ベータ崩壊核である136キセノンを導入して観測を行なっている。キセノンを約400 kg使用したフェースで2016年に世界最高感度の結果を出したが、ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊の発見には至らなかった。2017年度は、キセノンを約400 kgから約800 kgへ倍増するのに加え、ミニバルーンの放射性不純物を少なくし有効体積の増加をすることを目的に、体積が約2倍のミニバルーンの作製を行った。クラス1以下のクリーンルームにおいて以前のミニバルーン製作の際よりも徹底された清浄度の下、半径約2mのミニバルーンを完成させた。 また、800kgフェーズの次期計画に向けて検出器を改善するための研究として、大光量下での光電子増倍管の振る舞いについて調査し理解を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、昨年度に製作した136キセノン入り液体シンチレータ保持容器であるミニバルーンをKamLAND検出器内にインストールした。キセノンを溶かし込む前のデータ解析から、ミニバルーンの中の液体シンチレータが放射線不純物であるTh232を、およそ10の15乗 g/gほど含んでいることが判明した。このThの娘核であるBi212とPo212の連続崩壊がパイルアップした事象が無視できない背景事象となる可能性があったので、液体シンチレータの蒸留純化を行なった。蒸留純化の後、136キセノンを約91%含んだキセノンガスを、ミニバルーン中の液体シンチレータに溶かし込んだ。2019年1月からニュートリノを伴わない2重ベータ崩壊探索を開始した。キセノン導入後の観測データからも、ミニバルーンにリークの兆候は見つかっておらず、安定した観測が行えている。また、データ解析から、導入したミニバルーンはKamLAND-Zen 400実験で使用していたものよりもU238やTh232 といった放射性不純物の含有量が10分の1程度と非常に綺麗であったことがわかった。KamLAND-Zen 800の開始は遅れてしまったが、非常にクリーンなミニバルーンが作製できたことで、背景事象の少ない有効体積を大幅に稼ぐことができ、期待以上の感度が見込めるため順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、1月から観測を開始したKamLAND-Zen 800実験のデータ解析を中心に研究を行う。特に、主要な背景事象の内C10やBi212-Po212のパイルアップ事象は解析的に取り除くことが可能である。解析で効率よくそれらの背景事象を取り除く方法を研究して、ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊の背景事象を少しでも削減して発見に有利になるように努める。約半年ほどのデータを使用することで、感度的には、KamLAN-Zenでの前回の結果が与える136キセノン原子核のニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊の半減期の下限値を超える予定である。今年度中に結果を論文にまとめて発表する予定である。 また、KamLAND-Zen実験は、KamLAND-Zen 800で主要な背景事象になると考えられるニュートリノを放出する二重ベータ崩壊や解析で除去しきれないC10の背景事象を減らすため、検出器自身のアップグレードを予定している。それに必要な光量増加のための開発や、大光量事象後のデータ収集におけるデータロスを減らすためのハードウェアの研究開発を行う。
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