2017 Fiscal Year Annual Research Report
日本における都市機能アクセシビリティの地理的格差の分析
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17J01985
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷本 涼 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | アクセシビリティ / モビリティ / 生活の質 / 将来推計 / 郊外内圏 / 立地適正化計画 |
Outline of Annual Research Achievements |
モータリゼーションの進展により多くの個人のモビリティは向上したが、高齢化、人口減少時代を迎え、生活に必要な施設などへのアクセスをさらに公正に保障する必要性が増大している。これは過疎地だけの問題ではなく、日本の都市政策の中でも目標とされており(例えば立地適正化計画制度)、郊外化や都心回帰、少子化や高齢化といった人口動態上のトレンドのもと、公正な生活環境の保障のために望ましい都市構造が模索されている。 翻って地理学での近年の交通研究では、交通手段の維持にかかわる政策の実行や、その関係者の意思決定の過程の解明に重点が置かれてきた。このような政策的アプローチには、政策の実効性を明らかにできないという問題点がある。また、交通条件などの居住環境の側面から、生活の質の評価を試みた都市地理学などの研究の多くは、住民個人の主観的評価を分析対象として重視しており、対象地域以外での妥当性や、個人属性と客観的な生活環境の特性の関連性は明らかでない。そして、政策の実行や人口動態などを加味し、生活の質やアクセシビリティを通じて将来の都市環境の様相を推計するような研究は、日本の地理学分野ではほとんど見られない。 こうした問題点の解決のため、政策を含めた都市・交通環境と、多様な性質を持つ個人のモビリティ・アクセシビリティを結び付けた将来推計を進めている。具体的には、上記の都市・交通問題に加え、医療サービス需給の不均衡が都市部でも顕在化していることを踏まえた、大阪府北部における医療・交通政策が医療施設のアクセシビリティに与える影響の将来推計や、大幅な人口減少と高齢化が予測される大阪都市圏全体における、高齢者・子育て世代にとって重要な施設へのアクセシビリティの将来推計を行った。このような多様な指標に基づく地域の将来予測は、人口減少国日本の多くの自治体の要請にも応えうるものであると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
採用第1年度は、当初は移動・交通手段の新機軸(障害者向けサービス、カーシェアリング、レンタサイクルなど)と、現在および将来の都市機能へのアクセシビリティの関連性を分析し、その検討の成果を学会誌上で公表することを計画していた。 しかし、日本国内でのアクセシビリティの検討は未だ乏しく、特に都市圏における将来推計の試みは見当たらない状況であった。そのため、上記のような分析の前に、まずは近年の人口問題との関連で注目される高齢者や子育て世代の日常生活圏において、彼らにとって特に重要な施設(病院、介護施設、保育施設、食料品店など)への現在と将来のアクセシビリティ上のリスクを推計し、今後の議論の基礎としての、日本の都市圏におけるアクセシビリティの将来的動向をとらえる必要があると考えた。 そこで採用第1年度では、大阪大都市圏を対象に上記のような推計を試み、将来的なリスクが予見される地域や、地域の社会経済的属性との関連性を明らかにすることを試み、主に以下の知見が見出された。(A)近郊地域での病床・介護施設・保育施設の不足や,都心部周辺でのコンビニ・スーパーの撤退可能性など,都市圏の広い範囲で様々な施設に関する問題が今後数十年で悪化する可能性がある。(B)推計結果や居住者属性の地域差を踏まえると,問題の解決策には,官民の適切な連携,将来的な問題の変化への対応,住民特性の考慮,自治体の柔軟な施策を支援する政策的枠組みの,4つの要件が指摘できる。(C)上記要件に照らすと,現在の対象地域での都市計画(立地適正化計画制度を活用したアクセシビリティ向上策)には,問題の評価や誘導する施設の選定において課題が見受けられる。現在これらの研究成果を、学会誌に査読付き論文として投稿する手続きを進めている。 以上のように具体的な研究内容は当初予定から変更したものの、根幹の研究課題に対しては一定の成果を挙げていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
実績の概要や進捗状況で述べた通り、最終的な研究課題である「日本における都市機能アクセシビリティの地理的格差の分析」という目的に対しては一定の成果を挙げてきていると考える。今後は第1年度の分析で得られた知見をもとに、当初予定していた移動手段の新機軸とアクセシビリティの関連性に関する検討や、全国的なアクセシビリティの状況の比較などを実施する予定である。 具体的な実証的研究としては、上記の検討成果の知見をもとに、引き続き社会的・政策的な問題意識の強い生活関連施設に対するアクセシビリティを中心的な対象とし、都市圏内部における交通政策や新たな公共交通・新規移動サービスの導入が進む地域でのアクセシビリティの将来的変容を明らかにし、地域間比較を行うことで、「都市機能アクセシビリティの地理的格差」の将来の姿の考察に取り組む。特に、郊外内圏(都市圏の郊外のうち、都心部に比較的近い地域)、特にニュータウンにおける問題の重要性が、既往の都市地理学・人口地理学などの研究や自身の研究で明らかになっているため、こうした地域に注目して議論することを検討している。加えて、地域の社会経済的属性(ジオデモグラフィクス)や、生活環境に関する主観的イメージに関する社会統計などの日本における状況を整理し、生活の質を規定するアクセシビリティと人々の属性の間の関係、あるいは生活の質という概念に対するアクセシビリティの寄与度などに踏み込んだ議論を展開することを目指す。 そして、英語圏を中心とした最近の学界の意識の変化を踏まえ、研究動向や利用可能なデータ・分析方法などをより深く理解する必要があろう。特にデータの種類・内容や入手可能性は、GIS(地理情報システム)を用いた空間的分析の幅を規定するものであり、市販・オープンデータの別を問わずその知識を深めることは、研究の進展に重要な意味を持つ。これらの点も今後の検討課題としたい。
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Research Products
(3 results)