2017 Fiscal Year Annual Research Report
リピート結合性小分子を用いた1型筋強直性ジストロフィーの化学生物学的研究
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17J02038
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松本 惇 大阪大学, 産業科学研究所, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | トリヌクレオチドリピート病 / 1型筋強直性ジストロフィー / CUGリピート / RNAの二次構造 / RNA結合分子 / 分子設計 / 結合シミュレーション / RNAと蛋白質の相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
【U-U結合分子の創製】 ①分子の大きさ・形U-Uミスマッチとの適合性を軸に分子動力学計算によるドッキングシミュレーションを用いた基本骨格1,3-ジアミノイソキノリンの選定 ②カチオン性アミノ基を有するアルキル基の修飾によるカチオン性・水溶性の獲得 ③結合状態の安定性に加え、リガンドがRNAに挿入されていく過程にも着目した置換基の導入、を経てリガンドを設計した。リガンドは1,3-ジクロロイソキノリンから6ステップで合成した。SPR測定よりリガンドはCUGリピートRNAに強く結合することを示した。また、CUGリピートと同様にピリミジン塩基のミスマッチを形成するために、これまで区別が困難であったCUGリピートとCCGリピートとの区別にも成功した。複合体解析より、リガンドは一箇所のU-Uミスマッチに対して一分子結合しており、予想した複合体構造を示唆する結果であった。また、リガンド二分子を連結させたダイマーリガンドはモノマーより10倍程強い結合能を示し、選択性においても向上が見られた。 【In vitroでのmRNA及びMBNL1の解離誘導】 CUGリピートの伸長により発症する1型筋強直性ジストロフィー(DM1)の核内に見られるCUGリピートと蛋白質MBNL1の凝集体を、In vitro系に模擬的に形成させてリガンド添加によるCUGリピートとMBNL1の相互作用阻害を観察した。MBNL1と放射標識したCUGリピートを混合し、リガンドを順次添加後ゲル電気泳動により解析した。リガンド濃度依存的に遊離したRNAのバンド強度が上昇し、期待したMBNL1とCUGリピート間の相互作用の阻害に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで着目していたミスマッチ部位に加えミスマッチの周辺構造を利用した分子設計を行うことで、これまで困難であったCUGリピートのU-UミスマッチとCCGリピートのC-Cミスマッチに明確な親和性の差を生み出す分子設計指針を見出し、配列選択的なリガンド開発に成功した。コントロール化合物の結合評価結果から、リガンドがRNAに挿入されていく過程に着目した分子設計は塩基の水素結合の認識能を高めるため、他の塩基にも適用可能であるという点で有用である。また、今回得られたU-UミスマッチとC-Cミスマッチの選択性の差は、ドッキングシミュレーションの結果と相関を見せているためシミュレーションの段階で選択性を予測可能であることを示唆している。 シミュレーションの複合体構造を元にした二量化は期待通りより強い親和性を表した。さらに、ダイマーリガンドはRNAの大きな構造変化を誘起せず、モノマーリガンドの結合様式を保ったまま結合していることから、オリゴマーへの展開も容易だと考えられる。 CUGリピートとMBNL1の相互作用阻害は、提唱されているDM1治療機序に不可欠な現象である。In vitro系中でのこれらの相互作用の阻害をリガンド添加により達成したことは作用機序に基づいた新規治療法開発への第一歩だと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
リガンドの細胞毒性や細胞膜透過性のような基本的物性をHeLa細胞やHEL293細胞及び蛍光顕微鏡やフローサイトメトリーを用いて評価する。細胞膜透過性が優れない場合リガンドのカチオン性に起因する可能性が高いと考えられる。修飾可能なアミノ基のアルキル化等でリガンドの疎水性を向上させることで細胞膜を透過しうるリガンド開発を目指す。 共同研究者と協力し、DM1細胞での核内凝集体をCUGリピートに相補的な配列を有するFISHプローブを用いて可視化する。さらにリガンド添加後、凝集体の解消を示唆するFISHプローブの蛍光の消失または分散を観察する。凝集体の解消を確認後、MBNL1が関与する種々のmRNAスプライシング産物の逆転写定量PCRにより定量、健常細胞の値と比較しリガンド添加による解離したMBNL1のスプライシング制御機能の回復を評価する。 モノマーリガンドやダイマーリガンドとCUG/CUG配列が形成するU-Uミスマッチとの複合体構造の解析を結晶化やNMRにより推定し、リガンドとRNA間の相互作用を解析する。その結果を新たな分子設計にフィードバックしU-Uミスマッチに限らずRNAが形成する他のミスマッチや他の二次構造に適応できうる分子設計指針の提案を目指す。
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