2018 Fiscal Year Annual Research Report
流出解析と環境DNA分析を用いた種の生息位置推定モデルの開発
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17J02158
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
内田 典子 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 環境DNA / 水生昆虫 / 定量PCR / メタバーコーディング |
Outline of Annual Research Achievements |
水生昆虫を対象にした環境DNAメタバーコーディングに関して,バイオインフォマティクスのパイプラインを構築した.塩基配列情報同士の一致度の閾値は,メタバーコーディングデータの解析結果の信頼性を左右するが,水生昆虫に関して,データに基づいて閾値を設定した例はない.このため水生昆虫に特化した塩基配列一致度を調査した.その結果,水生昆虫CO1領域は属内の塩基配列一致度が85%であり,菌叢18SrRNAで用いられる90~97%属内一致度,魚類16SrRNAで一般的に用いられる97%属内一致度よりも閾値が低いことが示された.
環境DNAメタバーコーディング結果と従来のサーバーネット採集法における,水生昆虫検出度を比較した.さらに,それぞれの手法から得られる水生昆虫相の季節・空間的な群集構造の違いを示した.解析サンプルは2016年5月から12月において名取川流域中の13地点から採取した全75サンプルであり,解析対象遺伝子は無脊椎動物のミトコンドリアDNAのCO1領域である.環境DNAは従来法よりも多くの分類群を検出し,特に水際~陸に生息域を持つハエ目やカメムシ目等の検出が顕著であった.また2つの手法において得られる群集構造は似通っており,環境DNAと従来法の相関は高いものと考えられた.本結果は現在論文として投稿中である.
環境DNAのメタバーコーディングと定量PCRにより,水生昆虫個体数が推定できる可能性を示した.メタバーコーディングにより,分析する全DNA中における各水生昆虫分類群DNAの相対的存在量を得た.分析に供するDNAの濃度をqPCRによって定量した値と組み合わせ,目的の水生昆虫分類群のDNA絶対量を推計し,実際に採集された水生昆虫量との関係を解析した.その結果,カゲロウ目,カワゲラ目,ハエ目については環境DNAと実水生昆虫量の間に正の相関が得られた.本成果は平成30年度東北支部において口頭発表をしたほか,現在論文として投稿準備中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度の調査の失敗を生かし,必要な追加野外調査をスムーズに計画・実行できた.他方,メタバーコーディングの情報解析に関しては一から勉強が必要な部分が多く,時間を多く費やした.しかしその過程で得た人的ネットワークおよび知識は今後にとっても重要なものであった.データの信頼性を高めるために論文へ纏め上げる作業が後手となり,思ったような業績を積めなかったことは反省点である.
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Strategy for Future Research Activity |
土地利用の違いによって,河川水中の環境DNA濃度に有意な差が表れることを示したが,この要因を追求することができていない.既往研究においては人為影響が大きい河川ほど水生昆虫量の季節変動が小さいことが報告されている.これは人工的な河川が物理・化学的に均一な環境を作るため,季節を通じて生物種構成が変化せず,単純な生物相になることが要因であると考えられている.環境DNAによっても同様の傾向が確認できた可能性があると考え,今後,環境DNAメタバーコーディングにより生物相の違いを解析する.サンプリング地点ごとに季節間でβ多様性の変化を追い,陸域土地利用,および水文条件との関係性を精査する.
流下過程における環境DNAの減衰・生産係数の推計と流出解析への組み込み:水槽実験により,水流のフルード数の違いによって環境DNAの分解係数が異なるかを調べたところ,今回の実験条件では分解係数間に十分な差や法則を得ることができなかった.今後は分解係数に関しては既往文献において得られた値を使用することを視野に入れ,流出解析への導入を進める.
次世代シーケンサーを用いた無脊椎動物群集の解析において,今年度使用したプライマーは増幅長が長いために,情報解析において不利な点が多く見られた.このため近年開発されたユニバーサルプライマーを含め,使用するプライマーを再度選定する必要がある.
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Research Products
(5 results)