2017 Fiscal Year Annual Research Report
星間分子雲の内部構造と形成過程を探る新しい観測手段の開拓
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17J02168
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
海老澤 勇治 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 分子雲形成 / 星間物質 / 統計平衡計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ヒドロキシラジカル(OH)の18 cm線の4本の超微細構造遷移線(1612, 1665, 1667, 1720 MHz) の強度異常に着目し、これを星間分子雲の形成過程を調べる新しい手法として確立することである。また、これまで分子雲の構造形成の研究に主に用いられてきた一酸化炭素分子(CO)およびその同位体種(13CO, C18O)や中性炭素原子のスペクトル線([C I])のデータと、OH 18 cm線の観測結果を比較することで、分子雲形成の理解に新しい角度から切り込んでいくことを目指している。 これまでの私の研究で、おうし座の分子雲HCL2領域で1720 MHz線が宇宙背景放射に対する吸収線として検出されていた。この起源を調べるために、星間塵の遠赤外線放射を考慮した独自の統計平衡計算を行った。計算の結果、吸収線を再現するためには温かい(>30 K)ガスに囲まれた比較的高密度で冷たい(<30 K)構造が必要であることがわかった。また、吸収線の起源をより詳細に調べるため、アメリカ国立電波天文台の大型電波干渉計JVLAを用いてOH 18 cm線の観測を行い、これを13CO, C18Oの観測結果と比較した。観測の結果、吸収線は空間的に広がった温かいガスと冷たい分子雲コアの中間の構造を反映しており、上記の条件と矛盾しないことがわかった。以上のように、OH 18 cm線は、単一鏡および干渉計の観測を組み合わせ、COおよび[C I]の観測と比較することで、拡がった分子雲ガスから分子雲コアにわたって、分子雲形成を調べる新しい手法となりうることがわかってきた。 さらに、この手法を暗黒星雲Pipe nebulaに展開し、この天体における直線構造の衝突の有無を調べた。単一鏡によるOHの観測の結果、100 Kを超える高温の成分が広い線幅で検出され、衝突を支持する結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記の1720 MHz線の吸収線について、星間塵の遠赤外線放射の効果を考慮した統計平衡計算を様々なパラメータのもとで実施し、吸収線が現れる条件を精査した。また、この計算を観測スペクトルに適用することで、それぞれの天体の温度や柱密度を決定することができた。以上の結果を論文として投稿する段階にある。 吸収線の起源をより詳細に調べるため、アメリカ国立電波天文台の大型電波干渉計JVLAを用いてOH 18 cm線の観測を行い、13CO、C18Oの観測結果と比較した。観測の結果、1720 MHz線の吸収線が非常に弱く検出された。一方、赤方偏移した速度に強い輝線が検出された。この速度はC18Oのピーク速度と一致し、OH 18 cm線の4本の超微細構造遷移線の強度比は局所熱力学平衡で予想される比に一致していた。以上の結果は、この速度成分が高密度の冷たい分子雲コアをトレースしていることを示す。一方、1720 MHz線の吸収線が非常に弱いことから、吸収線は分子雲コアよりも空間的に広がった構造、即ち、周囲の温かいガスと冷たい分子雲コアの中間をトレースしている可能性がある。このように、干渉計によって単一鏡では捉えられなかった分子雲コアが分解され、1720 MHz線の吸収線の理解が大きく進んだ。 さらに、暗黒星雲Pipe nebulaにおいてOH 18 cm線の観測を行った。この天体は垂直に交わる2つの直線構造の衝突が示唆されており、直線同士が重なる領域で1665、1667 MHz線の線幅の広い吸収線が検出された。統計平衡計算の結果、これらの吸収線は100 K以上の高温が必要であり、衝突によって暖められたガスを反映している可能性がある。本観測により、1665、1667 MHz線の吸収線が高温下で現れることが観測によって実際に確認されるとともに、Pipe nebulaにおける衝突を支持する結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況で述べたように、暗黒星雲Pipe nebulaにおいて1665、1667 MHz線の吸収線が検出された。この吸収線は100 K程度の高温のガスをトレースし、Pipe nebulaにおける直線構造の衝突を支持している。今後はこの衝突の理解を進めるため、JVLAによるOH 18 cm線の観測を行う。Pipe nebulaの温度構造を調べ、これをCOの観測結果と比較する。特に、2つの直線構造の各速度成分について、温度分布とCOおよびOHの強度分布の関係を調べる。直線構造の交点付近で2つの速度成分が重なり、同時に温度が高くなることがわかれば、衝突の存在がより強く支持される。また、1665、1667 MHz線の吸収線は100 K以上の高温のガスをトレースするため、衝突が起きた高密度領域の周囲の希薄なガスを反映していると考えられる。HCL2における観測と同様、干渉計によって内側の高密度成分を検出することができれば、衝突に伴う分子雲形成の理解を新しい角度から進められる可能性がある。 さらに、干渉計を用いたOH 18 cm線の観測によって、星間ガスの新しい研究手法を開拓する。このために、銀河中心方向の大質量星形成領域に対してOHの観測を行う。視線方向に天の川銀河を渦巻く渦状腕が重なる場合、強い電波連続波を背景にこれらのガスが吸収線として検出される可能性がある。実際に、JVLAのOH 18 cm線の公開データを解析したところ、W49Nなどいくつかの天体を背景に渦状腕の吸収成分が確認された。また、吸収線から渦状腕の温度を決定することができた。そこで、JVLAを用いて、これらの天体をより高分解能、高感度で観測する予定である。本観測によって、渦状腕の温度からこの構造形成の理解を進め、OH 18 cm線を星間ガスを調べる新しい研究手法として確立することを目指す。
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