2017 Fiscal Year Annual Research Report
The Polycentric Network for Post-Earthquake in Nepal
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17J02430
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊東 さなえ 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | ネパール / 災害人類学 / 地震 / 復興 / 住民組織 / NGO / 都市 / 自助 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、2015年4月25日に発生した地震に対し、ネパール・カトマンドゥ盆地の人々の行った自助活動を多元的ネットワークという観点から分析することである。今年度は、合計で123日間、カトマンドゥ盆地、ゴルカ郡、シンドゥパルチョーク郡において被災した複数の集落に滞在し、参与観察とインタビューを行った。また、災害対応を行っている行政の部署、復興庁、NGOなどを訪問し、資料の収集とインタビューを行った。加えて、インターネットを用いて、国外に在住している調査対象集落出身者の発信内容を調査した。 調査により、ネパールの震災対応の特徴として、①行政による指針の提示の遅れ、②個別化かつ地域化する状況、③災害に関するNGOや国際機関の数と予算の増大の3点が明らかになった。これらの状況のもとで、ガレキの撤去や寺院の再建などが、住民や行政・国際機関のバランスの中で進められていた。行政による緊急対応・復興に関する計画が不明瞭な一方で、大小のNGOや国際機関の活動が錯綜していた。その中で、被災者たちは自助活動のための仲間を募り、資金を集めるために、どこが活動対象地であり、自分たちは何者なのかを語る必要に迫られていた。その語りには、伝統的な集落の領域のほか、国民国家としての政府により設けられた地区などの排他的かつ人工的な領域、学校の友人や婦人会などの開発の文脈の中で形成されたつながりが登場していた。 つまり、カトマンドゥ盆地では、行政区分や学校、開発プロジェクトなど、近代化とグローバル化の中で現れた新たな領域の中で形成されたネットワークが、震災への対応と復興に際して機能していたのである。加えて、その領域とネットワークは、柔軟にその形を変えるものであり、その柔軟性が人々の広範な活動を可能にしていた、という点も明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
長期フィールド調査により、多元的ネットワークについての事例を十分に収集できたこと、その調査結果を口頭発表および論文投稿の形で公表しフィードバックを得ることができたことから、これまでの進捗はおおむね良好であると言える。 調査により、被災者たちが緊急対応のための自助活動を立ち上げる際に重要だったのは、どこが活動対象地で自分たちは何者なのかを語ることであった、という点が明らかになった。これは、多元的ネットワークの背景の解明につながる重要な成果であった。自助活動を立ち上げた被災者たちの語りには、伝統的な集落の領域のほか、国民国家としての政府により設けられた排他的かつ近代的領域、開発の文脈のなかで形成された友人関係などが含まれていた。人々は、これらの語りを場面や相手に応じて使い分けつつ、ネットワークを構築し活用していたということが明らかになった。 一方で、復興が遅々として始まらず、家屋の再建などがほとんど行われていなかったことから、復興フェーズにおける多元的ネットワークの活用を把握するという目標は次年度以降に持ち越された。ただし、2017年5月に20年ぶりに地方選挙が行われた。この選挙を現地で観察する中で、権力の構造が変容し、それにより多元的ネットワークのバランスも大きく変わっていくであろうという示唆を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2018年度は、これまでの調査により得られた情報の理論化とアウトプットを中心に研究を推進する。これまでの調査で、ネパールの震災後の緊急対応では、自分たちが何者であるのかという語りに基づくつながりが自助活動を立ち上げる原動力となったことを明らかにした。それらの語りとネットワークは単一かつ明確なものではなく、相手や場面によって柔軟に変化し、いくつもが同時に存在するものであった。研究における当初の計画では復興も研究対象としていたが、新たな耐震基準の公布が遅れたこと、政治が不安定な状態が続いていたことから、2018年に入っても家屋や村、都市の再建などの復興に向けた動きはほとんどみられていない。そこで、今後の研究では、復興に向けた動きを引き続き注視しつつも、アウトプットに当たっては緊急対応における自助活動に着目し、そこで形成されたネットワークを、これまでの調査により得られた情報から読み解く。そのことは今後推進されていく復興とその中での多中心的ネットワークの役割についての仮説の構築にもつながる。 具体的には、論文の投稿と研究発表を行い、フィードバックを得る。論文は、『アジア・アフリカ地域研究』および『Studies in Nepali History and Society』、研究発表としては、『Himalayan Studies Conference』を予定している。 加えて、ネパールにおける短期の追加調査を行う。4月25日の震災があった記念日の前後で渡航し、震災からちょうど3年に当たる日に記念行事などについて調査する。また、8月に論文の執筆中に生じた不明点の調査のため補足調査を行う。 これらの研究発表により得られたフィードバックも反映しつつ、2018年度に研究成果を博士論文にまとめ、京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科に提出する。
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