2017 Fiscal Year Annual Research Report
Clicks frequency decision mechanism investigated from the distribution of physical properties in the head of small toothed whale
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17J02433
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
黒田 実加 北海道大学, 水産科学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | ハクジラ類 / エコーロケーション / クリックス / 発音器官 / 機能形態学 / 解剖 / 物性測定 / 音響シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者の今年度の研究目標は,【標本の蓄積】,【解剖所見の蓄積】,【音響シミュレーションのための環境整備】であったが,研究が当初の予定よりも進展したため【音響シミュレーションの実施】にも着手することができた。 【標本の蓄積】報告者が在籍する学術団体,ストランディングネットワーク北海道(SNH)において,北海道内の沿岸において漂着した鯨類の標本収集を可能な限り行った。平成29年度中にはネズミイルカ4,カマイルカ2,イシイルカ1の計7個体分の頭部標本を入手した。 【解剖所見の蓄積】上記頭部標本から発音器官を採材し,外部計測を行った。データは,後述の音響シミュレーション実施時に活用予定である。また,既に所持していたカズハゴンドウ(標本番号EW05720)の頭部に関してCT画像解析と組織の物性測定を行い,報告者が以前に明らかにしていた別の3種のイルカの発音器官をカズハゴンドウのものと比較し,4種のもつクリックスの音響学的な特徴の種間差と発音器官構造の関係について議論した。この結果は,日本セトロジー研究会第28回(札幌)大会にて発表された。 【音響シミュレーションのための環境整備】音響シミュレーションソフトにはLMS Virtual Lab. Acoustic(シーメンス株式会社)を選んだ。平成29年9月19日に実施されたトレーニングコースを受講し,有限要素法を用いた音響シミュレーションの理論について理解するともにソフトの操作方法を習得した。三次元CAD作成ソフトには,Fusion360(Autodesk)を選んだ。 【音響シミュレーションの実施】現在,ネズミイルカの頭部発音器官の再現を目標に,有限要素法を用いた発音器官の三次元音響シミュレーションに取り組んでいる。CADを用いてほぼ実物大のネズミイルカ頭部のモデルを作成し,物性データを組み込みながらモデルの改良を重ねている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は,研究に用いるイルカ頭部サンプルのさらなる蓄積をはじめ,これまで継続してきた頭部発音器官の軟組織の物性測定のほか,新たな試みである発音器官の三次元モデリングと有限要素法による音響シミュレーションに着手した。新しい手法を導入するにあたっては,報告者の専門外である工学分野の知識を多分に必要とするため,当初の予定よりも大幅に長い時間を要することが懸念された。しかし,共同研究者とのミーティングやトレーニングコースへの参加を経て独学で三次元音響シミュレーションを習得した結果,当初の目標であった研究環境の整備や理論の習得,音響シミュレーションソフトの操作習得に加え,実際にシミュレーションを行う段階にまで研究を進展させることができた。 また,研究と平行して成果の発表も意欲的に行うことができ,6月にはカズハゴンドウの発音器官構造の機能形態に関するポスター発表を行い,3月にはイシイルカの頭部発音器官内におけるクリックス放射過程に関する論文を投稿した。本年度は,新たな手法の操作習得の時間を十分に取れ,シミュレーション研究を行う上で欠くことのできない試行錯誤に十分な時間を充てることができた。これは,自らの研究テーマにおける乗り越えるべき課題を早期に認識し,早めに解決策を講じることができたことが理由であると考えられる。これらのことから,今年度の研究の進捗状況は当初の期待以上であったと評価できる。次年度も引き続き,自らのもつ課題を事前に認識した上で,先を見据えた研究の遂行を心がけたい。
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Strategy for Future Research Activity |
現在は,ネズミイルカ1種に焦点を絞って,発音器官の3次元モデリングと音響シミュレーションに取り組んでいる。本種をはじめとする一部のイルカのクリックスの周波数特性は他のイルカの中でも特徴的であり,130kHzにのみ鋭いピークをもつ高周波狭帯域(NBHF)クリックスである。対して,他の大多数のイルカは30-110kHzにかけて緩やかなピークを持つ広帯域(WB)クリックスを用いる。本研究の最終目標は,このNBHFクリックスとWBクリックスの生成過程の違いを解明することである。 そのために,ネズミイルカのNBHFクリックスを音響シミュレーション上で再現することを直近の目標としている。この目標が達成できれば,次はネズミイルカと異なる性質のクリックスを出すイルカの発音器官をモデリングすることで同様のシミュレーションを行い,WBクリックスの再現も試みる。これにより両者の生産メカニズムの違いを可視化し,発音器官のどの部位がクリックスの周波数特性の決定に寄与しているのかを明確に明らかにすることを目指している。 本研究はNBHFクリックスを用いるイルカ(NB種)とWBクリックスを用いるイルカ(WB種)を比較する研究であるため,より充実した成果を得るためには,NBHF種およびWB種のイルカの頭部標本をできるだけ多く収集することが望まれる。本年度も引き続き,すでに所持している標本の解剖および新たな標本の収集を積極的に行うほか,CT撮影や物性測定を継続して行い,さらなるデータの蓄積を試みる。これらの研究から得られた成果は,学会発表や論文の投稿などにより随時報告を行う予定である。
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Research Products
(1 results)