2017 Fiscal Year Annual Research Report
非線形解析による高齢者の転倒・バランス能力低下機序の解明と最適な運動療法の開発
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17J02446
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山縣 桃子 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 転倒 / 高齢者 / 協調性 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究目的:安定した歩行獲得には,遊脚足部や身体重心の制御が重要である.これらの変数を制御するためには,動作時の関節間の協調性が必要であり,これを評価する方法として Uncontrolled Manifold Analysis(UCM解析)が用いられている.29年度は転倒と関連の深い歩行動作と障害物またぎ動作を用い,関節協調性によって得られる身体重心や遊脚足部の安定性が転倒歴によって変化するかを調査した. 研究方法:高齢者を転倒歴のある転倒群と転倒歴のない非転倒群に区分した.三次元動作解析システムを用いて歩行と障害物またぎ動作時の力学データを測定し,UCM解析を行った.UCM解析は前額面に対して行われ,1)遊脚足部を安定させるために下肢関節がどれだけ協調的に運動しているか,2)身体重心を安定させるために全身の主要な関節がどれだけ協調的に運動しているか,をそれぞれ評価した. 研究成果:歩行と障害物またぎ動作ともに両群の身体重心の安定性は同程度だった.一方で,遊脚足部の安定性については両群に違いが認められた.歩行では,非転倒群や先行研究の若年者と比べ,転倒群は関節間の協調性を必要以上に利用して遊脚足部の安定性を高めていた.しかし,障害物またぎ動作では,遊脚中期に転倒群の遊脚足部の安定性低下がみられた. 若年者が通常歩行等の単純な課題を行う場合,動作中の関節間の協調性は最小限となっており,困難な歩行課題時にはこの協調性を高めて対応する.本研究の転倒群はこのような戦略がみられず,障害物またぎ動作時に遊脚足部の安定性が低下した.特に不安定性のみられた遊脚中期は足部が障害物上を通過する時期であり,これは躓きの原因となるかもしれない. 日常生活内で環境の変化は常に起こっている.困難な歩行課題で安定性を維持することができない転倒群は,このような環境に対応できず転倒を引き起こす可能性がある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は,1)高齢者の障害物またぎ動作等の制御方法を調査すること 2)研究結果をまとめ学術発表と論文執筆を行うこと 3)研究結果を元に,次年度の研究で利用する新たな運動介入を考案すること,の3つを目標にしていた. 1)に関しては,加齢による制御方法の違いだけでなく転倒歴による制御方法の違いを発見し,さらに通常の歩行動作と歩行中の障害物またぎ動作での戦略の違いを発見した.これらは平成30年度行う研究をより効果的で新規性のあるものにするために重要であった. 1)の研究結果は千葉県で行われた日本理学療法学術大会とドイツで行われたCongress of the European College of Sport Scienceで発表し,他の研究者と研究結果についての議論を十分に行うことができた.また,千葉県で発表した内容は高齢者関連の雑誌に投稿中であり,ドイツで発表したの内容は投稿するために執筆中である.現在は申請者が用いている解析方法の作り出したアメリカの教授のもとで研究を行っている.1)で得られた研究結果に対して議論する機会が多く,より深い解釈をしたうえで執筆活動を行うことができている.以上より2)についても順調に進展している. 3)に関しては,現在アメリカで取り組んでいる最中である.アメリカの研究室では理学療法士やエンジニア等,多くの方々が研究に取り組んでいる.病院の患者に対するデータ収集と解析も行っており,疾患によってどのように運動機能が退化し,それらが薬の効果によってどのように変化しているか,など実際に臨床に関連した研究を行っている.このような環境下で,平成30年度の研究で用いる運動介入の方法について十分に吟味し意見交換を行う.以上より,3)に関しても順調に進んでおり,全体を通して当初の計画以上に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の研究では,新たな解析方法を用い,転倒を防止するための運動介入効果を評価することである.そのために,平成30年度5月中旬までペンシルバニア州立大学で研究活動を行う.ここは,申請者が用いている解析方法を作りだした教授が研究室をもっており,データの解釈やそこから応用する方法を学ぶためには非常に良い環境である.さらに,実際の患者に対してもデータ測定を行っており,この解析方法を臨床に応用する研究も進んでいる.平成29年度得られた研究結果から,転倒防止に最適な運動介入方法を考案するためには,このペンシルバニア訪問は非常に重要となる. 帰国後の6月から約1か月間,所属の京都大学で今年度の研究で用いる運動介入の方法を議論し決定する.所属している京都大学バイオメカニクス研究室では臨床経験を積んだ理学療法士の先生方が多く所属しており,臨床的視点で話し合いを行うことができる. 運動介入の考案に加え,6月は対象となる高齢者のリクルートも行う.昨年度リクルートした高齢者に電話や葉書などによってリクルートする予定である.もし人数が集まらないようであれば,京都府内のポスター等により対象者を集める. 7月から対象者に対してデータ測定と運動介入の指導を行う.各対象者には3か月間のホームエクササイズを行ってもらう.その間,電話等によりホームエクササイズの状況確認や指導も行う予定である.初期データ測定から3か月後,再度データ測定を行い,運動介入の効果を判定する. その後,これらのデータをまとめ,学術大会等で発表する.学術大会にて他の研究者と討論し,さらに研究結果についての解釈・考察を深める.その後,論文執筆を行っていく予定である.また2年間の研究結果をまとめ博士論文を作成する.
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Research Products
(3 results)