2017 Fiscal Year Annual Research Report
新自由主義時代の在日コリアン―階層化されたエスニシティ・差別・不平等
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17J02528
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
鄭 康烈 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 在日コリアン / 内的多様性 / 階層 / 教育 / 労働 / 新自由主義 / 交差性 |
Outline of Annual Research Achievements |
新自由主義が国内の諸制度に浸透するなか、在日コリアンの集団内階層差についての詳細な分析が不足しているこれまでの研究状況を念頭に、本研究は、在日コリアンの教育システムおよび労働市場への編入を規定する社会的諸条件を、エスニシティや階級、ジェンダーにかかわる諸要素から、交差性アプローチを用いつつ明らかにする。 2017年度は、研究の出発として、新自由主義理論、貧困理論などを検討し、在日コリアン研究である本研究への援用を検討した。また、日本で新自由主義が台頭し出す1980年代以降の国内の諸制度の変遷やそれが社会にもたらした帰結についても整理したほか、在日コリアンをとりまく固有の構造についても把握する目的で、歴史的に彼/彼女らが特定の産業へ集中して従事してきたことや、ある期間において社会保障などの権利から排除されていた経緯が、いかに現代の若い世代にもかかわる問題として継続しているのかを確認した。 これらの作業を経たうえで、年度末には不安定労働に従事する在日コリアンへの聞き取り調査を行った。具体的には、2018年1月に関東・関西・中国地方に在住するパート労働や非正規雇用に従事する在日コリアン計8名にインタビューを実施し、それぞれのライフヒストリーを把握した。ここから、経済力不足を理由に民族学校に子どもを送ることを断念せざるを得ない親の事例など、低所得層の在日コリアンであるがゆえに人生の特定の局面で遭遇する、特有の経験の一端が明らかになった。2018年度にはさらに対象者を増やし、継続して調査を実施する予定である。 また、2017年度には、それまでの自身の研究成果の学会報告(関東社会学会第65回年次大会)も行った。さらに、ここで得たフィードバックをもとに論文を執筆し、11月には学会誌(年報社会学論集2018年度号)に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度の調査実施に際して、本研究は機縁法によって調査対象者へのアプローチを試みたが、とりわけ不安定労働に従事する在日コリアンになかなか巡り合えないという困難があった。そのため当初の計画から数か月遅れて聞き取り調査が実施されたが、それでも年度内に8人の対象者にインタビューを行うことができた。しかし、2017年度内に分析に足る充分な数の語りを収集できたとは言えず、不安定労働に従事する在日コリアンへのさらなる聞き取り調査は次年度の課題として持ち越された。 ただし、調査を進めるなかで、低所得層などの生活相談を行っている民族組織と繋がりをもつことができたことは一定の成果である。低所得層の在日コリアンは不安定な就労形態にある者が多く、今後はこのようなネットワークを有効活用しつつ調査を進めていきたい。 また、調査を実現できない期間に先行研究や理論的枠組みなどの検討を重ねたことは、研究設計自体の精緻化につながったと考える。2018年度以降は調査対象を不安定労働に従事する者だけでなく、成功的に一般経済に参入する層にも広げることになるが、フィールドワークを行う前にこのような作業を行えたことは、研究の土台をより洗練されたものにしたという意味で進展であったとみなせるだろう。 以上を踏まえ、2017年度は、当初予想しなかった困難があったものの、今後研究を展開していくうえでの地ならしができたという意味でそれなりの進捗があったものと自己評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、不安定労働に従事する在日コリアンへの聞き取り調査をさらに進め、彼/彼女らのいかなる階級的、ジェンダー的要素がエスニシティとの相互関連のなかで一般労働市場への安定的な編入を妨げているのかを検討するためのデータを収集する。そのうえで、2018年度の第34回日本解放社会学会にて不安定労働に従事する在日コリアンを主題とした報告を行い、得られるフィードバックをもとに研究の精度を上げたい。2018年の年度末には研究成果を論文としてまとめたのち学会誌(『解放社会学研究』2019年発刊号)へ投稿し、発表を目指す。 さらに、新自由主義的価値観が浸透した国内諸制度を、在日コリアンが持つ固有の文脈のなかで評価・分析しなおす作業も進めていく。労働市場や教育システムといった国内諸制度が新自由主義施策によって変容していくことはこれまでも指摘されてきたが、こうした現象が在日コリアンにとってもつ意味を、エスニック・マイノリティの視点から再整理するつもりである。 また、本研究の最終的な到達目標は、新自由主義が国内の諸制度に浸透する現代的時代背景のもと、在日コリアンの教育・就労の経験をエスニック集団内の階層差に着目しながら立体的に把握することである。こうした当初の研究計画を意識しつつ、2018年度には不安定労働に従事する者への研究に並行する形で、一般労働市場に成功的に包摂される在日コリアンへの聞き取り調査も順次開始していく。こうした在日コリアンの教育システムへの編入や、それにつづく就労をめぐるライフヒストリーは、それ自体ひとつの独立した研究として2019年度以降の学会での報告や論文投稿を目指すが、最終的に目指している研究の完成像を意識しつつ、現在進行中の不安定労働に従事する在日コリアンに関する研究結果との対比も意識しながら、段階的に研究を進めていくつもりである。
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