2018 Fiscal Year Annual Research Report
新自由主義時代の在日コリアン―階層化されたエスニシティ・差別・不平等
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17J02528
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
鄭 康烈 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 在日コリアン / 労働 / 分化 / 新自由主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は前年度に引き続き、在日コリアン3世4世の内的多様性を労働市場への編入様式の差異に着目しつつ把握する試みに取り組んだ。一年を通し、在日コリアンの社会経済的地位に関する先行研究や移民二世代以降の労働市場への編入に関する海外の理論の批判的検討を重ねるなど、インプット作業を継続した。また、在日コリアンのライフヒストリーや入職経路、就労状況などに関する聴き取り調査を関東圏中心に継続したほか、5月、7月、1月には、中国・関西地方に出張調査も実施した。結果として、年度を通し新たに13人の協力者から聴き取りデータを得ることができた。同時に、在日コリアンが開催するイベントでの参与観察を数度実施し、調査対象者の候補となり得る在日コリアンたちとのネットワークづくりにも注力した。 研究のアウトプット作業について、研究の暫定的な成果は、国内外で開かれた研究会やワークショップ、シンポジウムなどで報告した。6月と7月の二度、社会学や歴史学、哲学などの領域において在日コリアン研究に従事する研究者を中心に構成される研究会で研究報告を行い、フィードバックを得た。また、10月にはドイツ、アメリカの移民研究分野の第一線で活躍する研究者を招いたワークショップで英語報告を行ったほか、12月にはニュージーランドのオークランド大学で開かれたコリアンディアスポラをテーマとするシンポジウムにて研究発表を行った。 年度末となる1月には、一年間の研究成果を約15000字の論文としてまとめ、学会誌(『ソシオロジ』)へ投稿、査読審査を経て、2019年7月に刊行される号での掲載が決まった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
在日コリアンの社会経済的地位に関する先行研究や産業社会学の基礎的な文献などの検討作業から、現代の在日コリアンの労働の形態について、エスニック経済化(エスニック・ビジネスへの従事)、経済的同化(一般労働市場への編入)、分極化(不安定な労働への従事)という三つに整理できること、そしてこうした状況をもたらした背景に、とりわけ80年代以降における日本の産業構造の再編とそれに伴う労働市場の変容があることを確認した。 現在までの研究で確認できたことは、在日コリアンの一般労働市場への編入の一経路として、2000年代後半以降、新自由主義グローバリズムが日本企業の経済活動をアジアに拡大させる大きな潮流のなか、海外留学を経て人的資本を蓄積した多言語話者としての在日コリアンが、高度外国人材として日本企業に希求される形で一般労働市場への編入がなされる事例があるということである。 その後、海外の移民研究で発展してきた理論枠組みについて継続的に検討を重ねるなかで、在日コリアンの社会経済的地位の分化というテーマがすなわち、アメリカの移民研究で発展してきた、移民第二世代以降のホスト社会への適応(adaptation)に関する理論と適合的であることが明らかになってきた。国内の在日コリアン研究がこうした海外の理論枠組みと関連付けられることは意外にも少なく、その意味で、こうした気づきは、今後の研究にも一定の進捗をもたらすことが期待できる。 また、海外の研究者に向けた研究報告で得たフィードバックは、実証に偏りがちで、理論との往還が意識されない自身の研究モデルの設計に関する反省へと繋がった。上に述べた理論枠組みの再検討とも関連し、研究のアウトプット作業を通じてこうした反省を得たことも、今後の研究を進める際に役立てられる点である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、在日コリアンの就労に関する聴き取りや必要な場所における参与観察などといった調査を継続しつつ、関連する先行の理論・実証研究を検討するインプット作業と、暫定的な研究成果の発表というアウトプット作業を重ねていく。 これまでの分析は、一般労働市場に参入する在日コリアンのなかでも、とりわけグローバル企業に勤務する者の事例に限定され行われた。今後は、まずこうした枠を超え、産業や企業規模の差異にも着目しつつ、その他の多様な事例に分析の対象を拡げていく。今年度の秋までには、一般労働市場における在日コリアンの編入様式を、ある程度の広がりをもって把握する作業を完了させ、研究成果を論文としてまとめたのち、学会誌への投稿を目指す。 また、一般労働市場で就労する者たちについての考察がひと段落したのちには、在日コリアンの伝統的なエスニック産業で労働に従事する者たちや、なんらかの要因により不安定な就労状況に追いやられる者たちを対象に予備的な調査・分析作業を始め、翌年度以降の研究に向けた準備作業を進めていきたい。 言うまでもなく、こうした一連の作業は、移民の適応過程に関する既存の理論枠組みを参照しつつ行う。日本における在日コリアンの事例を検討することが、既存の理論の説明力を検証することになるのか、あるいはその限界を示すことにつながるのかを問いつつ、最新の理論研究の動向にも目を向けながら、研究を進めていくつもりである。
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