2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17J02633
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
大塚 悠里 明治大学, 明治大学大学院理工学研究科博士後期課程(DC), 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 応答低減係数 / 最大応答時の1サイクル / 復元力特性 / 等価減衰定数 / エネルギー吸収 / 鉄筋コンクリート造梁 / 構造実験 / 減振構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,建築物には,大地震に対しても一定の機能維持や損傷の抑制が要求されている。また,超高層建物や免震構造では,長周期地震動への対策も喫緊の課題であり,応答を一定の許容値以下に制御することが建築物の耐震設計における,近年の最重要課題の一つであると言っても過言ではない。一方,応答を制御するためには有効なエネルギー吸収が不可欠であり,また,の応答の低減効果を適切に評価することが重要である。このため,制振・免震構造では種々のダンパーが開発され,そのエネルギー吸収による応答低減に関する研究が,耐震構造も含めて多くの研究者により行われてきた。これらの研究のうち,特に,エネルギー吸収に伴う減衰による応答低減係数は,地震時における構造物の応答,すなわち建物の応答低減効果,ひいては建築物の耐震性能を簡易に予測することができる有用な係数であることから,多くの研究者により検討されている。それらは限界耐力計算など多くの耐震規準に採用され,また,構造特性の位置づけなど多くの研究にも用いられている。しかしながら,これら既往の応答低減係数の提案式は全て,統計的な計算により求められた回帰式であり,理論が確立しているとは言い難い。また,入力地震動や建物の復元力特性により,提案式と解析値との整合性にバラつきが大きいことが指摘されている。 そこで初年度にあたる29年度は,応答低減係数に関する研究として,非定常弾性応答時と定常弾塑性応答時における応答低減係数を,理論を基に提案した。また,優れたエネルギー吸収能力を有する新たな構造の開発実験を行った。これらの成果を学術論文としてまとめ,日本建築学会構造系論文集(査読あり)に1編,構造工学論文集(査読あり)に1編の論文が掲載され,コンクリート工学年次論文集(査読あり)に2編の論文を投稿し,現在審査中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
まず,非定常弾性応答時における応答低減係数の評価を行った。非定常応答時における弾性一質点系の応答低減係数の理論式は最大応答直前のピーク値から最大応答に至るまでの歪エネルギーの増分,定常ループを描く時の減衰による吸収エネルギーから与えられる。29年度では,この理論式に応答の非対称性を加味した減衰による吸収エネルギーの修正係数と減衰による周期の変動が応答低減係数に及ぼす影響を考慮しうる補正係数を用いた応答低減係数の修正式を提案し,応答解析結果との比較からその整合性を示した。 次に,非定常弾塑性応答を評価する上で定常ループのエネルギーは重要な要因である。このため,29年度では復元力特性による応答への影響を定量的に捉えることを目的とし,弾塑性一質点系が共振する場合のエネルギーの釣合からRC造やS造の復元力特性に応じた応答低減係数の評価式を誘導し,評価式が定常応答時の応答解析結果と良く整合することを示した。 さらに,優れたエネルギー吸収能力を有する新たな構造として,減振機能を有する鉄筋コンクリート造梁の応用開発研究を行った。減振構造とは通常の構造が一般的に部材長において耐力が一様な部材から構成されるのに対し,部材端部のヒンジ部の耐力がヒンジ部以外の部分の耐力より相対的に小さく,かつ,ヒンジ長さが短い部材からなる構造である。29年度では一般的に梁は鉛直荷重時の影響により,梁端部の下端筋が上端筋より少ないことに着目し,下端筋の一部を非定着とした減振梁及び減振構造のより有効的な活用法と考えられる建物の一部に減振梁を効果的に用いることを想定した短スパン梁の構造実験を行った。実験結果より提示した減振部材は通常の配筋法とした部材に比べ初期剛性は変わることなく早期に降伏し,小さな変形段階から良好な履歴吸収能力を示した。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度では,非定常弾性応答時の応答低減係数と定常弾塑性応答時の応答低減係数を,理論を基に示した。しかしながら,実際の建物の応答は,非定常弾塑性応答であることから,30年度は応答低減係数については,本課題の最終目標である非定常弾塑性応答時に対する検討を行うことを目的とし,平成29年度までの研究成果の提案式の修正を行うと共に,その修正式の検証を行う。検証において,解析対象モデルはRC造を想定した武田モデル,S造を想定したバイリニアモデル,木造及びブレース構造を想定した武田スリップモデルの3種類とし,入力波は告示波及び実地震動とする。 減振構造に関しては,29年度では短スパン減振RC造梁の構造実験を行い,小さな変形段階から良好な履歴吸収能力有することを示した。しかしながら,変形角1/400(rad.)で付着ひび割れが発生した。このため,30年度はその改良により,十分な変形能の確保と復元力特性のモデル化を行う。具体的には,短スパン減振RC梁の付着性能を改善し,その実験結果より降伏変形角や等価減衰定数の定量化を図る。また,減振構造に優れた損傷軽減機能を付加するため,減振スリットを設けた非定着減振モデルの構造実験を行う。このモデルは,梁端部の主筋のうち内側に配した主筋を梁端部で非定着とし,梁端境界部にひび割れ誘発目地を設けたモデルであり,ひび割れ誘発目地はかぶり厚に影響を与えないように梁幅の中間部に設ける。
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Research Products
(13 results)