2017 Fiscal Year Annual Research Report
火星表層の環境変動において岩石-水-大気相互作用が与える影響の研究
Project/Area Number |
17J02704
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田畑 陽久 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 火星 / 環境変動 / 大気進化 / 光化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
火星は、かつての還元的で地表に液体の水を有するような環境から、現在観測されるような酸化的で寒冷で乾燥した環境へと大規模な環境変動を経験したことが知られる。しかし、その過程は未だ明らかになっていない。惑星が地表に水を有する環境から乾燥環境へと変化する過程とメカニズムを理解することは、地球の環境変動や系外惑星における生命存在可能性を議論する上でも重要である。本研究では、これまで個別論的に考えられてきた大気―水―岩石間の相互作用を統合することにより火星が経験した環境変動過程を解明すること目指す。今年度は、近年の火星探査から示唆された酸性化イベントに着目し、酸性化のメカニズムを明らかにすることによる環境変動の理解を目的として研究を行った。
近年の全球的な鉱物分布観測から、火星は大規模な表層環境変動を経験した際、水環境の酸性化イベントも経験したことが示唆された。酸性化のメカニズムとして提案されているもののひとつに二価鉄(Fe2+)の光酸化反応がある。二価鉄は紫外線が照射されると三価鉄(Fe3+)へと酸化され、同時に水素イオン(H+)を生成することで水環境を酸性化する。しかしながら、火星においてこのメカニズムを始動するトリガーが何であったかは分かっていなかった。そこで本研究では、大気組成の違いによって地表に届く太陽光スペクトルが変化する点に着目し、種々の大気組成下における模擬太陽光スペクトルを用いて光酸化反応実験を行った。その結果、大気中のSO2濃度がある閾値を下回ることで、鉄の光酸化反応のメカニズムが切り替わり、地表水のpHの酸性化が開始され得ることを発見した。このことは、火山活動の低下による大気中SO2濃度の低下が環境変動を引き起こした可能性を示唆する。これらの結果は、今後の火星探査によって得られる鉱物組成データと比較することで検証可能であり、火星環境変動の解明に大きな示唆を与える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の目標は火星表層の酸性化のメカニズムを明らかにすることによる火星環境変動の理解であった。酸性化のメカニズムを解明するために二価鉄の光酸化実験を行い、上記の通り定性的には酸性化のメカニズムを説明可能であるという結果を得た。火星環境変動を理解するためには、この二価鉄光酸化反応がどの程度鉄の酸化に寄与していたかを定量的に知ることも重要である。しかし、得られた実験結果は過去の実験的研究と比べて実験条件が異なるため、直接比較して定量的な議論を行うことは難しかった。そこで、定量的な議論を行うために過去の実験的研究と実験条件を揃えた実験を追加で行った結果、やや遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
岩石―水―大気を統合することで火星の表層酸性化を定性的に説明する新メカニズムの研究結果と、火星表層における二価鉄の光酸化反応の鉄酸化への寄与の定量化の研究結果はいずれも結果がほぼまとまり、学術雑誌に投稿する準備を進めている。今後は、火星表層環境変動の究極的な要因である、火星大気の宇宙空間への散逸と表層酸化の関連について研究を進めていく。これまでの研究から、火星は大気散逸により大気の大部分を失うことで乾燥・寒冷な環境へと変化したと考えられきた。しかし、軽い元素である水素はその大半が散逸したことを説明できるものの、より重い酸素は水素ほど散逸することができないという問題があり、酸素は岩石中の鉱物を酸化することで地中に固定された可能性も考えられている。火星大気が表層を酸化することで失われる過程を理解することは、火星表層に多量に存在する酸化鉄の起源と火星表層酸化のメカニズムの理解において重要である。そこで、過去の火星表層における岩石―水―大気間の酸素固定メカニズムを解明するために、火星を模擬した気相―固相不均一反応による酸素固定反応実験を行う。実験から得た表層酸化により大気から酸素が失われる速度を用いることで、過去から現在までにどれだけの酸素が岩石中に固定されたかが推定される。また、現在の火星における反応速度を提示することで現在の火星大気の観測に示唆を与えると同時に、観測結果と比較することでこのプロセスの定量的な検証を行うことができる。
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