2018 Fiscal Year Annual Research Report
Systematization of the Armenian Church Decoration
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17J02973
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
赤穂 菜摘 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 図像と建築部位 / 境界の象徴性 / フィールドワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
アルメニアの教会堂には石製の様々なモティーフを題材とした建築装飾が見られる。報告者はこの中でも普遍的に見られながら、これまでアルメニア美術史の中で詳細に検討されてこなかった動植物や幾何学文様に着目した上で、これらが象徴する意味を教会堂建築の図像プログラムとして考察、体系化することを研究目的としている。 2018年度は、ノラヴァンクとマカラヴァンクという2件の教会堂を図像プログラムの事例として取り上げ、論文執筆や研究発表を通して考察した。これまで装飾の図像学上の意味や配置に見える神学的な象徴性、建築部位がもつ機能を主な着眼点としてきたが、マカラヴァンクでは建築装飾と福音書写本に見られる挿絵との関連についても検討を進めた。古典由来と考えられるモティーフの選択や、「入口」や「境界」に相応する配置の共通性から、建築という物理的な空間と写本という二次元の世界では、同等の象徴性をもつ図像プログラムが見られる可能性があるとした。建築装飾では挿絵と比べて空間を埋めるための装飾的なモティーフが少なく、かつ選択されたモティーフがキリスト教の文脈で解釈可能なため、より具体性をもつ教義的な意味が含まれていると考えられる。特に、一定数の作例が見られる動物の闘争的な表現は、教会堂を装飾するモティーフにも拘らずこれまで古代異教および世俗的な意味をもつと捉えられてきた。闘争図をキリスト教の教義的な文脈で解する視点は、アルメニア美術史家らが近年唱えるようになってきたものの根拠に乏しく、報告者の考察結果は重要な視点と言える。 アルメニア長期滞在では、エレヴァン国立大学や国立古文書館であるマテナダランへ出入りし文献収集を行うとともに、国際学会への参加を通して現地研究者と意見交換を行い、情報を共有することもできた。緊密なコネクションの形成は、帰国後の報告者の研究に役に立つと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
図像プログラムの考察対象として、2018年度から新たに検討し始めたのはマカラヴァンクの装飾である。ここでは特に教会堂装飾と福音書写本の挿絵がもつ象徴的な関連性に着目している。報告者はこれが教会堂の出入り口における図像プログラムを説明する鍵になると仮定し、教会堂壁面に見られる銘文も視野に入れつつ、現在もこの点についての考察を続行している。 現地フィールド調査については、2018年度を以ってアルメニア共和国におけるほぼ全ての主要な教会堂へ訪問することができた。これに伴い、各教会堂の創建年代や現状等の基礎情報、確認される装飾モティーフの種類、関連文献を記した教会堂データベース、および教会堂名や建築部位、各装飾の特徴等をモティーフ毎に記した装飾データベースを作成し終えた。 2018年8月から継続しているアルメニア共和国での長期滞在を通して、日本では得られる機会がほぼ無いアルメニア美術および建築の基礎知識や基本文献を入手することができ、研究の土台を固めることにつながった。現在、写本挿絵の象徴性にも着目していることから、マテナダランのリーディングホールで積極的に資料を閲覧している。エレヴァン国立大学やマテナダランへ通い、国際学会に参加することを通して、現地研究者および大学院生とも知り合い、自身の研究課題の意義や問題点を確認することができた。それとともに現地の最新の研究動向を把握し、必要な情報が手に入りやすくなった。教会堂訪問のエクスカーションでは、通常閉鎖されている建築の基礎部分への立ち入りと写真撮影が許可され、付属博物館で解説を聞く機会を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
自身で作成した教会堂データベースをもとに考察するにふさわしい教会堂を選択し、引き続き図像プログラムを検討していく。アルメニア長期滞在を通して、アルメニア美術・建築には各地域が強い特色をもつことを再認識した。そのため、これまで通り全体に目を向けて考察を続けるものの、自身の研究課題である体系化のために共通項を見出せるかは疑問である。対応策としては、闘争図のような特定のモティーフや、出入口やアプシス等の特定の建築部位に焦点を当てること、また特定の地域に的を絞ることによって検討を進めていきたい。 当初は、教会堂での儀式や人々の目線の動きにも着目する予定であったが、アルメニア滞在中に現地研究者と意見交換を行ったところ、中世当時の儀礼の慣習や使用していた文書の情報が不確かであると認識しつつある。現段階ではこの点を除外することとし、代ってこれまでに着目してきたモティーフの図像学上の意味、配置の神学的な象徴性、建築部位の機能に加え、昨年度から関心を向けていた、建築装飾と写本挿絵の象徴的な関連性、教会堂内外壁に刻まれた銘文の内容を図像プログラム考察の新たな着眼点としていく。 これまで人物以外で見られるほぼ全てのモティーフ(十字架、果実、鳥、動物、容器)に着目してきたが、制作した装飾データベースを概観するに、全てを意味あるものとして検討する必要はなく、考察においてもどの建築部位に置かれているのか、他にどのようなモティーフが近接して配置されているのか等、装飾の置かれた文脈を予想し、対象を取捨選択する必要があると考えている。データベースを元に様々な種類のモティーフをもつ教会堂に着目することで、集中的な図像プログラム例の収集を進める。
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Research Products
(2 results)