2018 Fiscal Year Annual Research Report
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17J03034
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高尾 祐太 北海道大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 中世文学 / 仏教 / 密教 / 和歌 / 古今伝授 / 神道 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度に実施した研究の成果は以下の通りである。 これまでの研究を通して、古今伝授の思想体系の鍵概念として如来蔵思想(一心思想)に注目するに至った。本年度には、この如来蔵思想(一心思想)の、中世の知識人が分野を越えて共有した知識基盤(〈中世の知〉)としての強度を検証した。具体的には、無住の『沙石集』等の一連の著作、『平家物語』の一部の写本に付属して伝わる「剣巻」を対象に、それらのテクストの中で如来蔵思想(一心思想)がどのようにたちはたらいているかを考察した。 (1)無住『沙石集』に見られる和歌陀羅尼説の検討を通して、無住が著述活動に熱意を注いだその意図を、無住の言語観から考察した。無住の著作にしばしば引用される空海の言説は、本来の文脈で持っていた意味を離れた用いられていた。そこで、空海と無住の密教的言語観を比較することで、無住の言語観の特質を定位し、それが無住の著述活動の根底にあるであろうことを論じた(「無住に於ける説話の言語──『沙石集』の和歌陀羅尼説をめぐって──」(『日本文学研究ジャーナル』第10号、2019年6月、掲載予定))。無住の言語観もまた、如来蔵思想(一心思想)的世界観に基づいている。 (2)『平家物語』「剣巻」の諸本全てに登場する「風水龍王」に注目し、「剣巻」がテクストの背後に仏教的理を透視する、密教的読解を要求するものであったこと、そうして浮かび上がる理の世界に依って、平家一門が救済される仕組みになっていることを論じた。この「風水龍王」もまた、一心を指すものであった(現在、投稿中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全体として順調に進捗し、成果を上げている。研究の新たな展開の準備に時間を要したため、本年度に論文の形で発表したものはないが、本年度中の成果をまとめた論文2本を現在投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、本年度の実施計画を継承して研究を推進してゆくことが妥当だと判断される。 具体的には、新たに連歌論や御伽草子等の領域も視野に入れつつ、中世の文芸の中で如来蔵思想(一心思想)がどのようにはたらいているかを検証する。
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