2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J03063
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
五十嵐 彰 東北大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
|
Keywords | 多文化主義 / 移民 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、多文化主義政策と移民の居住国に対する愛着および国民の移民に対する態度を中心に研究してきた。本来は日本を対象にして行う予定であったが、データの取得が当初の予定よりも困難であったため、研究対象をヨーロッパに移し、テーマの本筋となる多文化主義政策と移民の統合を検討することとした。 本研究は主に二つの分析から構成されている。第一に、多文化主義政策が移民の居住国への愛着に与える影響について分析した。多文化主義政策が移民の愛着に与える効果は理論研究において議論が分かれており、実証研究も乏しい。多文化主義者は多文化主義政策が移民の居住国に対する社会経済的な参加を促進し、差別を減らすために移民の愛着が増すと予想した。他方反多文化主義者は移民が自集団とより強く関係をもつようになり、自集団への愛着が増し、結果として居住国に対する愛着が減ると予想した。こうした対立する見解があるにもかかわらず、実証研究は極めて乏しい。本研究ではヨーロッパ20カ国を対象に、多文化主義政策と移民の居住国に対する愛着との関連をマルチレベル分析で検証した。本研究の分析の結果、多文化主義政策は一部の移民の居住国への愛着と正の関連をもつことが明らかとなった。 第二に、多文化主義への反論として、移民の自集団への愛着と居住国への愛着の間に対立関係があるため、居住国への愛着が減るという議論がある。しかしながら、上述の研究では多文化主義者の議論に対する支持が得られた。ではどうして反多文化主義者の議論が支持されなかったのか、これを本研究では検討した。分析の結果、多文化主義政策下ではこの対立関係が解消されることが示された。すなわち、反多文化主義者の議論の前提となる愛着の対立関係は多文化主義政策下では成り立たないため、反多文化主義者の議論も支持されないといえる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
採用者の研究テーマは、多文化主義政策と移民の統合に関する実証分析である。本来は日本を対象にして行う予定であったが、データの取得が当初の予定よりも困難であったため、研究対象をヨーロッパに移し、テーマの本筋となる多文化主義政策と移民の統合を検討することとした。対象とする国は変更したものの、多文化主義政策と移民の統合という目的をより達成しやすくなる変更といえる。 現在までの進捗状況として、ヨーロッパにおける多文化主義政策を測定するための指数を作成し、ヨーロッパにおいて実施された社会調査と組み合わせて分析を行った。 第一に、多文化主義政策が移民の居住国への愛着に与える影響について分析した。成果は複数の国内・国際学会にて発表し終え、現在投稿先である国際誌のSocial Science Researchから修正と再提出を受けている。 第二に、多文化主義政策下における、移民の自集団への愛着と居住国への愛着との関連を検討した。分析結果をAmerican Sociological Associationの年次大会に投稿し、口頭報告としてアクセプトされている。報告が済み次第、国際誌に投稿する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策について、今年度は移民の居住国に対する愛着に重点を置いて研究してきた。今後は、国民の移民に対する態度に対して多文化主義政策が与える影響を検討する。この分析を行う際、因果関係が問題となる。すなわち、国民の移民に対する態度がポジティブだからこそ、多文化主義政策が導入されるという議論である。多文化主義政策の導入に関する先行研究はこの関連、すなわち国民の態度が多文化主義政策の導入を決める、という関連を否定しているものの、この方向の因果関係を分析で否定する必要があると思われる。そのため今後の研究として、多文化主義政策と国民の移民に対する態度の時系列変化を捉えつつ、多国間比較を行う分析を行う。これにより国家間の差異のみならず、国内における時点間の変化も捉えることができ、多文化主義政策の時間的な効果を検討することが出来る。
|
Research Products
(4 results)