2017 Fiscal Year Annual Research Report
表面・界面物性制御による極低反射率結晶シリコン太陽電池の超高効率化
Project/Area Number |
17J03077
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
鬼塚 裕也 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 結晶シリコン太陽電池 / ブラックシリコン / シリコンナノクリスタル層 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、極低反射表面をもつ結晶シリコン太陽電池の表面・パッシベーション膜などとの界面の物性を解析・制御して、太陽電池で生成する電子とホールの表面再結合を防止することで、結晶シリコン太陽電池の高効率化を目指している。極低反射表面は、本研究室で開発した化学的転写法によってシリコン表面に形成されるシリコンナノクリスタル(nc-Si)層によって得られる。今年度は、主にi)nc-Si層のバンド構造の解析とii)化学的転写法の反応制御によるnc-Si層の構造制御を行った。 nc-Si層のバンド構造の解析は、主にX線光電子分光法によって行った。nc-Si層を表面に形成したp型結晶Siの価電子帯上端のエネルギー領域を観察したところ、nc-Si層ではバルクSiよりもバンドギャップが拡大する方向に増大していることが確認できた。このことは、nc-Si層では、Siのバンドギャップが量子サイズ効果によって拡大していることを示唆している。これは、nc-Si層の紫外可視発光スペクトルが可視光領域で見られることとも一致する。以上から、nc-Si層では、バンドギャップが拡大しているバンド構造が形成されていると考えられる。 pn接合を形成したnc-Si層では、先の拡大したバンド構造により、太陽電池表面へのホールの拡散を防ぎ、キャリア再結合を減少させると考えられる。そのため、ii)化学的転写法の反応を制御することで、表面へのホールの拡散をより防げるようなバンド構造をもつnc-Si層の構造の形成を試みた。その結果、薬液中の過酸化水素水の割合を増やすことで、より拡大したバンド構造を示唆するnc-Si層が得られた。この新たな条件で形成したnc-Si層に対してパッシベーションを施して太陽電池を作成したところ、nc-Si層で吸収される短波長領域の光に対する内部量子効率が大幅に向上することが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は主に、i)nc-Si層のバンド構造の解析とii)化学的転写法の反応制御によるnc-Si層の構造制御、という二点から結晶太陽電池の特性の向上を目標としてきた。 i)nc-Si層のバンド構造の解析においては、X線光電子分光法によるnc-Si層の価電子帯付近のスペクトル観測を行うことで、nc-Si層のバンド構造が、表面に向かって拡大しているということを示唆する結果が得られた。また、この結果から予想されるバンド構造は、紫外可視発光スペクトルから得られる結果とおおむね一致することが分かった。 ii)化学的転写法の反応制御によるnc-Si層の構造制御に関しては、薬液中の過酸化水素水の割合を増やすことで、リンケイ酸ガラスパッシベーションが適用できる程度に薄く、かつ、これまでの化学的転写法の条件で形成できるnc-Si層と比較して、同じ反応時間でもより拡大したバンド構造が形成できていることを示唆する結果が得られた。 また、この過酸化水素水の割合を増やした条件で形成したnc-Si層を用いて単純な構造のp型結晶シリコン太陽電池を作製したところ、短波長領域(300~400nm)の入射光に対してに80%程度の非常に高い内部量子効率が得られたセルが確認できた。 以上のように、分光学的手法と、デバイス作成により本来想定していた結果が得られたため、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、化学的転写法によって形成したnc-Si層による極低反射表面におけるキャリア再結合を低減させるための研究を行ってきた。この結果、nc-Si層を形成し、リンケイ酸ガラス+水素ガスアニールによるパッシベーションを施すことによって、p型結晶Si太陽電池表面での表面再結合速度をかなり低減することに成功している。よって、今後は太陽電池裏面でのキャリア再結合の防止が重要となる。 初期の計画段階では、ホウ素による裏面電界の形成の際にp型結晶Si裏面に堆積するホウケイ酸ガラス(BSG)をパッシベーション膜として用いる手法を提案していた。しかし、ホウ素の拡散によって形成されるp+層では、Si/BSG界面にボロンを多量に含むボロンリッチレイヤーが形成されることで、予想されるようなBSGによるパッシベーション効果が得られないことが分かった。 そこで、ケイ素化合物を含む溶剤を太陽電池裏面にスピンコート塗布し、pn接合形成と同時に加熱することで形成される酸化膜を太陽電池裏面のパッシベーション膜として用いる手法を提案する。このケイ素化合物を含む溶剤は、スピンコート塗布用のドーパントにも含まれている物質であり、基板上に塗布し、高温(概ね450℃以上)で加熱することでシリコン酸化膜を形成できる。この酸化膜を堆積し、水素中でアニール(400~450℃)することでPSGと同等かそれ以上のパッシベーション性能が期待できる。 この酸化膜を裏面に形成し、裏面電界と裏面電極を部分的に形成することで、太陽電池裏面での再結合を大幅に低減できると考えている。裏面電界と裏面電極の形成は、アルミを含むペーストをSiに対して塗布し、急速に高温アニールすることで、それらを同時に形成できる既存の技術を用いる。この手法では、真空プロセスを用いないために、低コストかつ高効率な結晶Si太陽電池の作成が実現できると考えられる。
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Research Products
(4 results)