2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17J03095
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
柴原 舞 奈良女子大学, 人間文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 触覚 / 湿り感 / 知覚 / 温冷感 |
Outline of Annual Research Achievements |
主な研究実績としては、なぞり動作時の布の湿り感特性に関する知見を得たことである。さらに、布以外の物体における湿り感についても評価した。当該年度は、査読付き国内学会論文誌1件(1st 1件)、国内学会発表9件(1st 3件)、査読付き国際学会発表1件(1st 1件)の発表を行った。また、オランダに留学して研究を進め、この内容は査読付き国際学会にて平成30年6月に発表予定(採択率24%)である。 当初の計画では、指の両脇部に温度刺激を提示することによって指腹部に温冷感を錯覚する装置を利用し、布に触れるとき湿り感を提示するために適切な温度刺激の制御手法を検討することと申請した。これは修士時代までに得た、布の温度制御による湿り感錯覚の手法を基に、皮膚の冷却から対象物体に温冷感を知覚させる手法によって湿り感を提示するというアイディアである。その前に、既存手法である布の温度制御によって、布をなぞったときの湿り感を評価した。乾燥した布の表面温度を冷却するという温度制御によって、知覚される湿り感の強度を心理物理的に評価した。その結果、なぞり動作時でも冷却した乾燥布から湿り感を錯覚することがわかった。この知見はなぞって触れる際の湿り感の再現手法の確立、また湿り感の知覚特性の解明において、重要な知見となる。 また、布以外を対象とした湿り感の評価については、物体を冷却することで湿り感を錯覚する現象は生じる物理的特徴を知るため、布を含めた数種類の素材を冷却し、湿り感を比較して評価する心理実験を行った。その結果、湿り感を強く感じる因子として、皮膚温度の低下と滑らかさが重要だと示唆された。この結果は、多様な物体における湿り感提示手法の方向性を示し、湿り感の知覚特性を解明する手がかりとなる。 以上のように、当該年度は当初の計画とは異なるが、計画以上の成果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗は、当初の計画とは異なるが、なぞり動作時・布以外の物体における湿り感提示に必要な物理刺激を推測することできたため、おおむね順調といえる。 当初の計画では、29年度になぞり動作時の湿り感知覚における冷刺激の効果を検討し、30年度に湿り感の知覚における振動刺激の効果を検討し、31年度に冷刺激と振動刺激を組み合わせて湿り感提示手法を検討する、としていた。 だが当該年度に、振動による粗さ・摩擦感を提示せずとも、布に冷刺激を加えるだけで、実際に水分を含んだ布と同程度まで湿り感を提示させられる可能性が示唆された。もし、なぞり動作時も冷刺激のみで湿り感を提示できるなら、湿り感の再現をより簡素な機構で実現でき、湿り感知覚における「冷感」と「粗さ・摩擦感」という手がかりの優先度合いを推測できる。 また、布以外を対象とした湿り感の評価も進めた。冷却した物体を静的に触れるとき湿り感を錯覚する現象は、どのような物体の物理的特徴から起因するのかについて知るため、布を含めた数種類の素材を冷却し、湿り感を評価する心理実験を行った。その結果、アルミやアクリルのような物体が湿り感の評価が高く、「皮膚温度の低下」と「滑らかさ」が重要な因子だと示唆された。 以上より、当該年度は冷却した布をなぞるときの湿り感を評価し、静的な触れ方のときと同様に湿り感を錯覚することを示唆した。また、布以外の物体についても湿り感錯覚を検討し、皮膚温度を大きく低下させる、あるいは滑らかな物体が湿り感錯覚を生じやすいことを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、布の温度制御によるなぞり動作時の湿り感提示を検討し、なぞり動作における湿り感知覚の因子を推測することができた。平成30年度は、温度制御のみで湿り感を提示できる条件を把握するため、なぞり動作時に湿り感を知覚する際の押下圧の影響を調査する。 本年度行った実験は、乾燥した布の表面温度を冷却するという温度制御を行いながら、実験の参加者は任意の押下圧でなぞり、知覚した湿り感の強度を7段階で回答した。その結果、なぞり動作時でも冷却した乾燥布から湿り感を錯覚することがわかった。この結果に至った背景として、なぞり圧の影響が示唆される。なぞることで水分の有無による「粗さ・摩擦感」の違いを弁別できるにもかかわらず、冷却した乾燥布から湿り感を知覚したということは、湿り感の知覚において、「粗さ・摩擦感」の情報は「冷感」よりも優先されないことが示唆される。参加者が軽い力でなぞったと仮定すると、「粗さ・摩擦感」はあまり知覚できず、「冷感」を重要視して湿り感を錯覚したのではないかと考えられる。そうであれば、強くなぞると「粗さ・摩擦感」を強く感じることができ、湿り感を知覚する上で大きな手がかりとなると推測できる。つまり、弱くなぞると冷乾燥布から湿り感を錯覚するが、強くなぞると湿り感を錯覚しにくいのではないかと仮定できる。 この仮説を検証するために、平成30年度は、押下圧を変えて布をなぞり、湿り感を評価する実験を行う。この実験により、なぞり動作時の湿り感における冷刺激の有用性を検討し、効率的な湿り感再現手法の確立に期待される。得られた知見はまとめて、論文を投稿予定である。
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Research Products
(12 results)