2017 Fiscal Year Annual Research Report
Analyzing of nonlinear vibrational spectroscopy from classical molecular dynamics simulation with intermolecular charge transfer effects
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17J03111
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
伊藤 広伸 静岡大学, 教育学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 水 / 分極 / 赤外 / ラマン / 電荷移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、液体、溶液、生体系分子に対する振動分光スペクトル計算及びその解析を行い、分子内及び分子間電荷移動効果を動力学起源から明らかにすることが目的である。その研究遂行において、最も基礎的で重要な化学物質である水分子を研究対象として水素結合形成した水分子における分子間電荷移動に関した研究を行った。本研究では、水クラスター系に外部電場を印加することによる電子密度変化の詳細を計算し、水素結合形成した水の分極率と電子の振舞いの関連性を解析することで、分極率における分子間電荷移動の効果の重要性やメカニズムを明らかにすることが出来た。その知見を液体水における分子動力学法による振動分光スペクトルの計算に応用することで、液体水における分子間電荷移動の効果を動力学的起源から明らかにすることが出来る。液体水における信頼性の高い振動分光スペクトル計算結果を得るための前段階として、二つ目の研究課題である、水素結合形成した水分子の静電分極による電子密度変化に立脚した分極モデルの開発を行った。計算科学において第一原理分子動力学法による振動分光シグナル計算は現状CPU時間の制約上困難であり、古典分子動力学法を用いた理論研究を行う必要があるが、従来の古典分子動力学法における分子の分極の効果を表現したモデルはいずれも電子密度変化に立脚した議論はなされておらず、妥当性の再検討の余地があった。そのため、電子密度変化に立脚した分極モデルが必要であり、本研究の遂行の結果、水素結合形成した水分子の静電分極による電子密度変化を再現する従来よりも大幅に精緻な分極モデルの開発に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究を行った年度当初は、水クラスター系を研究対象とし、外部電場を印加することによる電子密度変化の詳細を計算し、水素結合形成した水の分極率と電子の振舞いの関連性の解析を行った。この研究における成果として、「水素結合形成した水の分極効果の理論的解析」及び「水素結合形成した水の分極効果に関わる電子密度変化の理論的解析」のタイトルで、それぞれ第11回分子科学討論会(2017年9月)において口頭発表、第40回溶液化学シンポジウム(2017年10月)においてポスター発表を行った。その研究の遂行途中で、従来よりも大幅に精緻な分極モデルを開発する必要に迫られたため、水素結合形成した水分子の静電分極による電子密度変化に立脚した分極モデルの開発に優先的に取り組むことにした。こちらの研究課題については第21回理論化学討論会(2018年5月)において口頭発表する予定であり、近日中に論文執筆を開始する運びである。1年間で2つの課題に取り組み、そのうち1つは論文執筆開始直前の段階にまで至らせることができたことから、「(1)当初の計画以上に進展している。」と自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の年度当初に行っていた「水素結合形成した水分子の分極に関わる電子密度変化の理論的解析」の研究では、分極率における分子間電荷移動の効果の重要性やメカニズムを水クラスターの電子密度変化を計算することにより明らかにできたが、既存の分極モデルを用いた手法では周囲の環境における静電相互作用によって生じる分子の分極の効果を再現しない問題が生じており、液体水中における分子間電荷移動効果による分極率計算の信頼性に疑問があった。しかし、電子密度変化に立脚した分極モデルを開発したことにより、周囲の環境によって生じる静電分極の効果を従来よりも大幅に精緻な形で計算することが出来るようになったことで、分子間電荷移動の効果によって生じる水素結合形成した水の双極子モーメントと分極率をより信頼性の高い形で計算することが可能となった。今後は、液体水における動力学計算を行い、振動分光スペクトル計算とその解析結果をもとに「水素結合形成した水分子の分極に関わる電子密度変化の理論的解析」の課題においても論文執筆を行う。また、本研究で得た知見、開発したモデルを混合系へ適用し、分子動力学法による振動分光スペクトル計算と解析を基に分子間電荷移動の効果を動力学的起源から明らかにする。
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